2023/10/29 秋の東三河/奥浜名/天竜/奥三河周遊、豚猪食い倒れツーリング(奥浜名オレンジロード、鳳来寺パークウエイ、秋野不矩美術館、浜松ワインセラー、とん吉、植山食堂)



 10月最後の週末、地球温暖化の影響で季節外れの陽気が報道されるご時世ではあるが、暦の上では立冬を間近に控えた秋が終盤を迎えている。 近頃の急峻な気温の変化で、山間の紅葉は色づくことを忘れたまま枯れ落ちるようになってきたような気がする。 オフィスや在宅勤務に籠るリーマン親父が、季節の移り変わりを楽しむ時間が短くなってきた訳である。

 しかしまあ、還暦親父が心にとどめておきたい秋にも色々ある。 使い古された感はあるが、「〇〇の秋」という言い回しに、バイク親父の勝手な言葉を当てはめて行くと、短い秋を惜しむツーリング企画が出来上がる(笑)

 コロナ禍以降在宅勤務の機会が増え、運動不足が気になる親父がまず挙げるべきは「運動の秋」であろうか。 お気楽極楽なライディングが運動にあたるのか微妙なところであるが、走りごたえのあるワインディングをてんこ盛りにしたい。

 続いて、寒い冬を乗り切る体力を蓄えるために「食欲の秋」も欠かせないだろう。 既に運動不足解消ツーリングとの矛盾に陥りそうではあるが、よく食い、よく遊べば、接種カロリーも相殺されるであろう(笑)

 そして最後に、おのれのバイク馬鹿っぷりを覆い隠すために、「芸術の秋」ってのを付け加えておこう(笑)。 ツーリングの合間に美術館を訪れ、日本が失いかけている繊細な四季の移り変わりの感動を、バイク道楽以上に馬鹿にならねば成れぬであろう芸術家の作品で、補うことができればありがたい。

 随分と前置きが長くなってしまったが、結果的にたどり着いた旅の行程は、東三河から奥浜名湖そして天竜へと遠州灘沿いのワインディングを東走し、その後天竜川に沿って秋葉街道を佐久間まで北上して、紅葉の奥三河ワインディングを経て西へと帰還するルートである。 街中の混雑を避けて繋いだ秋の峠道で汗を掻けば、「運動の秋」を十分満喫できるだろう。

 さらに食いしん坊親父に欠かせぬ「食欲の秋」、道中で昭和親父の食欲を刺激した食堂に立ち寄れば、十分すぎる越冬の脂肪を溜めこむことができるだろう(笑)。 できれば、酒池肉林と盛り上がりたいところだが日帰りツーリングで飲酒はご法度、未成線となった旧国鉄佐久間線のトンネルを利用したワインセラーで、食事がすすむワインを土産に仕入れてかえることにした。

 そして最後に「芸術の秋」、唐突ではあるが秋野不矩画伯の「ガンガー」(1999年)を観たくなり、同画伯の故郷天竜区二俣町にある浜松市秋野不矩美術館を訪ねることにした。 昭和親父が、子供の頃と様変わりする世界を目の当たりにすると、何故かわからぬがこの作品が頭に浮かんでくるのである。

 さてさて、並べて見るとてんこ盛りの旅になってしまったが、思惑通りに行かぬのは毎度のこと、さらに思惑以上になってしまうのも毎度のこと(笑)。 ドタバタと駆け回りながら、それなりの秋を満喫した親父の旅を紹介してみたい。  


ススキが揺れる国道152で天竜川を遡る、遠い山肌に佐久間の集落



ルート概要


東名豊川IC-豊川IC南-県31-県380→当古町-国362-(本坂トンネル)→高橋-国301→三日池-(浜名惣社神明宮)-市道-奥浜名オレンジロード→(三ケ日IC)-奥浜名オレンジロード-(国民宿舎奥浜名湖)-奥浜名オレンジロード→奥山診療所-県303-(新東名高架)-県68 →浜松いなさIC-国257→JA伊平支店-県68→久留米木-県299-県68→新東名側道-県296→氏原組-市道(浜松カントリークラブ北側)→阪之脇橋-県9→平田大橋-市道(天竜川西岸)→塩見渡橋-県297→ニ光橋-国362→二俣大橋→浜松市秋野不矩美術館→二俣大橋-国362→山東-国152-(船明ダム)→とん吉-国152→道の駅天竜相津花桃の里、浜松ワインセラーー国152→大井橋-国473→植山食堂-国473→佐久間川合IC-三遠南信自動車道(無料区間)→東栄IC-国151→湯谷大橋-県524、県389(旧鳳来寺パークウエイ)→笠川-県32→長篠-国151→新東名新城IC



ツーリングレポート


 東名豊川インターから国道151の豊橋方面へ駆け降りると、すぐに県道31に分岐して国道362へと走り継ぎ、豊橋特産の次郎柿が実る柿畑を抜けて三ケ日方面へと駆け上がって行った。 そして、国道362が本坂トンネルをぬけると、奥浜名らしく瑞々しいみかんが実る三ケ日の景色が一気に広がる。


国道362本坂トンネルを貫け、三ケ日のみかん畑が広がる


 その後しばらくは、浜名湖北岸にむけてみかん畑の中を駆け降り、国道362が三ケ日の町中に差し掛かったところで、浜名惣社神明宮の脇から奥浜名オレンジロードへと駆け上がっていった。

 浜名湖北岸を走る奥浜名オレンジロードは、大きく分けて三っつの区間で構成される。 まず第一の区間は三ケ日町三ケ日~東名三ケ日IC(約5.5km)、第二の区間は東名三ケ日IC~国民宿舎奥浜名湖(約11km)、そして第三の区間は国民宿舎奥浜名湖~引佐町奥山(約5km)となる。 今更説明の必要もない奥浜名エリアを代表するワインディングだが、区間ごとに手前勝手な印象やツーリングに組み込む時の使い勝手など紹介してみたい。


第一区間:三ケ日町三ケ日~東名三ケ日IC(約5.5km)

 短い区間だが、アップダウンを伴いタイトに回り込むトリッキーなワインディングである。 観光車両が少なくペース良く駆け抜けることが出来るが、後半になるとみかん畑が広がり農作業車両に注意する必要があるだろう。 そして見通しが開ける場所では、三ケ日の町越しに猪鼻湖を見下ろすことが出来る。

 名古屋方面から手早く第一区間にアクセスするなら、今回の様に東名豊川インターを降りて国道362を経由するのがお勧めであろう。 また、国道301を経由すれば新城方面のツーリングルートと繋ぐことも可能だろう。 いずれにしろ、三ケ日の町中から奥浜名オレンジロードへ分岐はわかりにくいので、事前にルート確認しておいたほうが無難であろう。


奥浜名オレンジロード第一区間(三ケ日~東名三ケ日IC)


第二区間:東名三ケ日IC~国民宿舎奥浜名湖(約11km)

 第二区間は浜名湖北岸の奥浜名オレンジロードのメインルートである。 全域みかん畑を縫うようなワインディングには、緩やかなアップダウンを伴う緩急コーナーが途切れなく続き、決して退屈することは無いだろう。 所々に浜名湖を一望できる場所もあるので、緩急付けながらライディングを楽しみたいところである。

 前述の第一区間をパスすれば、東名三ケ日インターから県道308を経由して直ぐに駆け上がることができる。 そのアクセスの良さも手伝い、国民宿舎奥浜名湖を経由して気賀に駆け降りるまでの第二区間は、農作業車両はもちろん遅い観光車両への注意が必要になる。 浜名湖の大崎半島を縦断する浜名湖レイクサイドウエイからの連絡も良く、浜名湖岸のクルージングと組み合わせたツーリングルートを考えるのに重宝する。

 ところで、第二区間に走り出すと”暴走(ローリング)行為取り締まり強化路線”の看板に面食らうが、その取り締まりが功を奏したのか、ルート途上にたむろしてピストンする二輪も見かけなくなった。 無粋な交通規制がかからぬように上手くツーリングに活用し、二輪産業や地域観光にも貢献する正帰還を駆けて行きたいものである。


奥浜名オレンジロード第二区間(東名三ケ日IC~国民宿舎奥浜名湖)


第三区間:国民宿舎奥浜名湖~引佐町奥山(約5km)

 浜名湖北岸のみかん畑から引佐町奥山の里山へと景色を変えながら、緩やかなアップダウンをともなう峠道が続いている。 県道303から県道68へと走り継げば、新東名浜松いなさインターの脇で国道257に抜けることが出来る。

 今回は国道257を南へ下り、再び分岐する県道68で引佐の山間を抜けて天竜方面へと向かうことにした。 気賀から天竜二俣方面へ、天浜線沿いの国道362で混雑する街中を移動するルートに比べ、引佐山間のワインディングを満喫できる迂回ルートになるだろう。


奥浜名オレンジロード(国民宿舎奥浜名湖~引佐町奥山)


 奥浜名オレンジロードを走りきって、新東名浜松いなさインター脇から国道257を浜松方面へ走り出すと、JA伊平支店から県道68に分岐して引佐山間部へと駆け出した。 里山を縫うような短いピッチの峠道で時を忘れ走り込んでいると、引佐町から滝沢町へと続く山頂で回る巨大な風力発電施設群が目に留まる。 「遠州のからっ風」で有名な浜松地方、南アルプスから吹き下ろす北西の季節風が回す巨大な風車が立ち並ぶ景色は壮観である。


奥浜名オレンジロードから県道68へ、走りごたえのある引佐の峠道が続く


 さらに県道68を道なりに走り続けると、新東名高速道路を渡る手前で側道へと左折し、側道が突き当たる県道296で浜松カントリークラブの北側市道へと回り込み、県道297へと走り継いだ塩見渡橋で天竜川渡った。

 早速だが、奥浜名のワインディングで「運動の秋」を満喫したバイク親父は、ツーリングが天竜にさしかかったところで「芸術の秋」を体感することにした。 そして訪れたのは浜松市秋野不矩美術館、この藤森照信氏の設計で1998年に開館した美術館には、天竜二俣に生まれた秋野不矩(1908〜2001)画伯の作品が所蔵展示されている。

 目当ての作品は「ガンガー」(1999年)、秋野不矩が亡くなる二年前に91歳で仕上げられた作品である。 ガンガー(ガンジス川)を題材にしたこの作品は、彼女が50歳で美術大学の絵画指導者として渡印して以来、インドを訪れ現地の風景や暮らしを描いてきた作品の集大成のひとつとも言える。

 最近、地球温暖化の影響で子供の頃と随分変わってしまった季節感や、細々とした枝葉ばかりが気になり大切なことを俯瞰できない己のことを考えた時に、何故かこの絵のことが頭に浮かんでくる。 世の中が変わってしまったのか、それとも自分が変わってしまった、または変われずにいるのか? 齢を重ねながら、同じテーマで異国の川を描き続けた彼女の終の作品を観てみれば、そのヒントがもらえそうなものだと、今回の訪館となった次第である。

 さて、浜松市秋野不矩美術館へは、天竜川を渡った塩見渡橋から国道362を天竜二俣方面へ右折して程なく、美術館の案内看板に従い左折してたどり着くことが出来る。 美術館が建つ丘の麓に到着すると、シルバー人災センターの方々の誘導で相棒を停めて歩き出した。

 そして、団体客で賑わう予想に反した盛況ぶりに違和感を感じるも...時すでに遅し、入館受付にたどりついて話を聞くと、特別展を開催中で秋野不矩の作品は展示されていないとのことであった(泣)。 ここまで前振りしてなんとも情けない結末だが、特別展が終了した後に再訪して、秋野不矩画伯の作品と対面した結果を改めてお伝えしたいものである。

 受付で踵を返し早々に戻ったバイク親父は、怪訝な顔のシルバー人材の方々に事情を告げ、「芸術の秋」から「食欲の秋」に気持ちを切り換え、天竜川の上流に向けて走り出すことにした。

  

塩見渡大橋で天竜川を渡り秋野不矩美術館に立ち寄るも...


 今回の旅では、浜松市天竜区の二俣町から佐久間町まで、天竜川沿いを約40km遡る行程をたどる。 国道363、国道152、そして国道473へと国道を繋ぐ道中で、食いしん坊親父の「食欲の秋」を満たしてくれる場所に立ち寄る算段なのである。

 さて、秋野不矩美術館を後にして二俣の町中を抜けると、春野町方面へ続く国道363から国道152へと分岐し、天竜川を見下ろしながら佐久間に向けて溯って行った。 「芸術の秋」に肩透かしを食らったおかげで昼飯には少し早い時間となったが、まずは船明(ふなぎら)ダム湖畔で営業するとん吉に立ち寄ることにした。

 今回初めて立ち寄ったとん吉は、1979年に磐田市城之埼で創業した老舗のラーメン店で、2014年にここ浜松市天竜区の船明ダム湖畔に移転したとのことである。 今回の入店時にも、磐田時代からの常連客らしき方々が店主や女将に挨拶する姿が見られ、磐田の常連客を連れて天竜船明に越してきたことが伺える。 だれも不味い飯を追いかけてこんな所まで来ないだろうと、すする前のラーメンに期待が高まる(笑)。

天竜船明ダム湖畔で営業するとん吉、1979年磐田で操業した老舗ラーメン店


 開店早々の賑わいぶりだったが、運よく空いた壁際の席に落ち付くことが出来た。 生憎この日は埋まっていたが、窓際のカウンター席からは船明ダム湖畔の景色を眺めることができる。 そして早速、テーブルのおしながきをのぞくと、しょうゆ、とんこつ、塩、味噌とラーメンの種類は多く、餃子や定食メニューなどもあり、気取らぬ街の食堂っぷりに好感が持てる。

 そして注文したのはチャーシューメン900円也。 店内に掲げられた「漢方を長時間煮込んだ醤油」と「ロースターで焼いた本格チャーシュー」の両フレーズに魅かれ、それら総取りメニューの注文と相なった。 スマホで、今回対面できなかった秋野不矩作品の展示スケジュールなど確認していると、ほどなく注文したチャーシューメンが運ばれてきた。

 なるほど店内に掲げられたコメントの前振り通り、漢方を煎じた醤油スープはかなり濃い色をしているが、すすってみると意外にまろやかであっさりしている。 スープが良く絡み食感が楽しめる、平打ちちぢれ麺との相性も良い塩梅である。

 そして、麺を覆い隠すような自慢のチャーシューは、兎に角食べ応えがある。 こんがりと焼かれたチャーシューの外側は香ばしく、内側にはバラ肉の甘い脂が閉じ込められている。 ラーメン屋に対して失礼かもしれぬが、ぶ厚く切られたチャーシューのボリュームも手伝い、ラーメンでは無く肉料理といっても過言ではなかろう(笑)。

 食べ応えのあるチャーシューメンを一気に平らげて外に出ると、駐車場に入りきれず路側にまで並んでいた先客の車もいなくなり、とん吉の黄色い看板とW800streetのツーショットを撮影し天竜川上流へと走り出した。 

 

チャーシュー麺900円也、食べ応えある焼き豚はもはや肉料理


 国道152で天竜川を遡って行くと、天竜川最下流の船明ダム、そして秋葉ダムのダム湖を挟みながら、徐々に上流の荒々しい景色へと変わっていく。 昼食を終えて走り出した船明ダム湖は、暴れ天竜の肩書きがうそのように穏やかな川面、色づきだした山肌を映す天竜川を眺めながら秋のクルージングを満喫する。


天竜川沿いの国道152を遡る、船明ダム湖の穏やかな川面


 続いて「食の秋」を土産にしようと立ち寄ったのが「浜松ワインセラー」、現在の天竜浜名湖線の天竜二俣駅とJR飯田線の中部天竜駅を結ぶ予定だった、旧国鉄佐久間線の未成線トンネルを活用した天然のワインセラーである。 1967年から1980年にかけて建設され放置された全長1km以上に及ぶトンネルは、年間を通じてワインの貯蔵熟成に最適な温度15~18℃、湿度70~80%に保たれているらしい。

 国道152沿いの道の駅「天竜相津花桃」脇の山道を少し入ると、蔦が絡んだ未完成の橋梁が突然現れる。 その橋梁の付け根にW800streetを停めて山肌を登ると、未完成のトンネルの入り口を重厚な扉で塞いだ浜松ワインセラーにたどりつく。


旧国鉄佐久間線の未成線橋脚が目印の浜松ワインセラー


 小さな入り口扉をくぐりトンネル内に入ると、外気から遮断された湿った薄暗い空間に販売用のワインが並べられている。 リーズナブルなデイリーワインの種類も多いので、好みに応じたツーリングの土産を探すにも良さ気である。 さらにその先の施錠された格子の奥は、奥行き約250mのレンタル・ワインセラーになっており、木箱に入った客のワインが熟成を待っているとのことであった。

 


未完成の佐久間線トンネルを活かした天然ワインセラーの入り口


 早速「食欲の秋」の土産らしく家庭料理に合うワインを探し、スタッフに勧められたシャブリの当たり年2019年のジャンリケール5,100円也をご購入。 晴れふら親父の日常使いのワインにしては多少値が張るが、未成線トンネルで熟成された旅の思い出はプライスレス(笑)。

 毎度、雑味のなく切れ味の良い旨味や香りに、一気に飲み干してしまうシャブリである。 しかし今回は、浜松ワインセラーのお兄さんのうんちくに従い、開栓後にうまみが増すというジャンリケールを二日間かけてゆっくり味わうこととなった。 今回は「食欲の秋」を名目に仕入れた食事に合うワインゆえ、美味いシャブリにつられて過剰摂取した飯のカロリーに関しては不問にしておこう(笑)

2019年はシャブリの当たり年、ジャンリケール5,100円也をご購入


 さて、保冷パックで包んだシャブリをメッセンジャーバックにしまうと、国道152に復帰してさらに天竜川上流に向けて走り出した。 前述の通り今回のツーリングでは、天竜川が遠州灘に注ぐ浜松平野の根元に位置する標高約40mの天竜二俣から、竜頭山など1000m級の山々がそびえる標高約650mの佐久間まで天竜川を遡ることになる。

 その標高差のせいか、秋葉ダムを過ぎて天竜川の流れが荒々しくなるにつれ、川沿いの景色の色づきも徐々に深くなり、秋のツーリング気分が盛り上がってくる。 そして、さらに上流の山肌に貼りつくような佐久間の集落をみつけ、古から続く山間の生活圏まで遡ってきたことを知る。


ススキが揺れる秋葉街道、遠い山肌に佐久間の集落が見える


 ちなみに、天竜川沿いを走る国道152の路側には桜並木が連なる場所も多く、桜の開花に合わせれば春爛漫の花見ツーリングを楽しむことが出来る。 今回の旅の様に、紅葉の季節に海岸近くの街中らから山間の山村へ天竜川を遡のぼるルートをたどれば、川沿いの景色が徐々に色づく様を楽しむことが出来るだろう。 また、桜の季節に天竜川を下るルートをたどれば、川沿いの桜が徐々に花開く様を楽しむことが出来る。 こんな繊細なツーリングを楽しめるのも、四季の国日本に暮らす恩恵なのである。


春の国道152、天竜川を下り満開の桜に迎えれる(2004年4月撮影)


 国道152が国道473との分岐に差し掛かると、大井橋で天竜川に注ぐ水窪川を渡り国道473へと舵を切った。 分岐した国道473は、天竜川に沿って佐久間の町中を抜け、さらに奥三河の東栄町へと続いている。 一方秋葉街道こと国道152はここで天竜川から離れ、水窪川沿いをさらに上流の水窪方面へ遡って行くことになる。 

 さて、天竜川沿いの国道473を佐久間町内に向けて走り続けると、崖っぷちに貼りつくように営業する植山食堂にさしかかった。

 昭和親父のノスタルジーを刺激する小さな食堂は高齢の店主が切り盛りする場合が多く、実際のところ、コロナ禍で閉店してしまった店も少なくない。 年配のご夫婦が営むこの植山食堂も、そんなコロナ禍の影響を心配していたところなのである。

 既に食べ応えのあるチャーシューメンで満腹の晴れふら親父、植山食堂の店先にW800streetを停めて店の様子を伺うと...勝手口で作業するお母さんから声をかけられ、ベルトの穴を一段緩めて暖簾をくぐる覚悟を決めることとなった(笑)


天竜川の崖に貼りつく植山食堂、コロナ禍後の様子が心配で立ち寄ったが...


 そして、コロナ禍を乗り切った変わらぬ店内に入ると、席に落ちつき猪焼肉定食1,450円也を注文した。 早速、ガスコンロと鉄板が手早くセッティングされ、ほどなくてんこ盛りの猪肉と野菜の盛り合わせ、そして白飯と濃厚なアラ汁の定食が運ばれてきた。

 配膳してくれたお母さんの変わらぬ手ほどき通り、焼き過ぎると硬くなる猪肉はサッと炙り、塩を振って滋味深い山肉の旨味をいただく。 甘辛い醤油ダレでいただく焼き野菜は白飯のおかずになる。   

 分厚いチャーシューで満タンの筈だった親父の胃袋だったが、意外にサッパリといただける猪肉は無理なく収まり、豚と猪のそろい踏みで「食欲の秋」の旅は完結することとなった。 そして何より、コロナ禍後も変わらず営業する山の食堂に、胸をなでおろすはれふら親父であった。


様子見の筈がお母さんに手招きされ、猪焼肉定食で本日二度目の昼食(笑)


 ところで、値上げラッシュのご時世だが猪焼肉定食の価格は据え置き、そればかりか、注文を受けて生簀の鰻が捌かれるうな丼は、2,800円から2.700円へと値下げされていることに驚かされた。 これから厳しい冬にさしかかる山間ではあるが、春のお花見ツーリングなど時間を見つけて再訪したいものである。 

注文を受けて生簀の鰻が捌かれるうな丼2,700円也(2020年4月撮影)


 植山食堂で二度目の昼食を済ませて国道473に走り出すと、JR飯田線佐久間駅周辺の佐久間の町中を抜けて、巨大な変電施設の励磁音が響く佐久間発電所に差しかかった。 急増する電力需要に応えるため、昭和28年(1953)からわずか3年間で完成した佐久間ダムと佐久間発電所、当時日本一の規模の発電施設は、全国発電所量の約3%に達していたとのことである。

 そんな電力事業や町の90%を占める山林の林業で繁栄した佐久間町だが、当時26,671人@1955年だった人口は3,560人@2017年まで減少し、過疎化の一途をたどっているらしい。 時代に取り残されたような佐久間の町並みは、今どきのアニメ世代には「まるでジブリの世界」と形容されるのかもしれないが、昭和親父にとってはどこかで見かけたリアルな思い出なのである。


国道473で佐久間の町中を抜け、巨大変圧器の励磁音が響く佐久間発電所へ


 その後、国道473は蛇行する天竜川に沿って佐久間町内を抜け、奥三河東栄町方面に向けて天竜川を渡る原田橋に差しかかった。 2015年に二人の犠牲者を出した土砂崩れで崩落した旧原田橋、現在の真新しい橋は2020年に開通した新しい原田橋である。

 架け替え工事の最中に訪れた時には、土砂崩れの現場を見上げながら仮設の沈下橋に迂回し天竜川を渡った記憶がある。 ツーリングで通りかかった一見バイク親父ながら、生々しい土砂崩れの痕跡に自然災害の恐ろしさを知るとともに、大河で分断された地域の文化や日々の暮らしを繋ぐ橋の重要性を再認識したことを思い出す。

 今現在の、googl mapのストリートビューを覗くと、崩落前の旧原田橋、架け替え工事中、そして完成した原田橋のビューが混在しているようである。 ツーリングの機会があるならば、崩落したかつての吊り橋の姿を心に留めたうえで訪れてみてはいかかだろうか。 


2020年に開通した原田橋で天竜川を渡り天竜から奥三河へ向かう


2015年に崩落した原田橋、仮説の沈下橋で天竜川を渡る(2019年6月撮影)


 原田橋で天竜川を渡った国道473は天竜川沿いから離れ、支流の大千瀬川沿いを走り東栄町方面へと走り続ける。 もし原田橋を渡らず県道1に分岐して天竜川を遡れば、佐久間ダムを経由して豊根村に統合された旧富山村を抜け、天龍村の国道418に合流する。

 ちなみに、一度だけツーリングで訪れたことのある旧富山村は、人口約200人の日本一小さな村であった。 真っ暗でドロドロのトンネルを幾つも貫けて、崖っぷちの酷道を辿る冒険ツーリングを体験してみたい方にはお薦めのツーリングルートである(笑)。 

 さてさて、話が脇道に逸れてばかりで申し訳ない、今回のツーリングに話を戻させていただくと...国道473は、程なく三遠南信自動車道佐久間川相インターにさしかかり、東栄インターまでの無料区間を一気に移動することにした。 

 奥三河、北遠州、南信州の地方名が盛り込まれた三遠南信自動車道、中央道飯田山本インターと新東名高速道浜松いなさジャンクション間を結び、完成すれば総延長約100kmの自動車専用国道(国道474)となるらしい。 部分的に開通した幾つかの無料通行区間は、三遠南信地方のツーリングのショートカットルートとして重宝する。

 三遠南信自動車道(無料区間)の東栄インターまで移動すると、合流した国道151を設楽方面に向けて下って行った。 奥三河の紅葉もまだ始まったばかりだが、深い森におおわれた国道沿いや、山々に日差しが遮られる山肌に、鮮やかな色づきを探しながら走り続ける。 


三遠南信自動車道無料区間で東栄町に貫け、国道151を駆け下りる


  国道151が、並走するJR飯田線の跨道橋と交差しながら宇連川沿いの鳳来渓谷を過ぎると、湯谷大橋で宇連川対岸に渡った県道524へと駆け上がり、かつて有料道路だった旧鳳来寺パークウエイへと迂回することにした。 紅葉が有名なかつての観光ワインディングで、秋のツーリングを締めくくるつもりである。

 11月中旬が本番の紅葉にはまだ早かったが、山影の紅葉は十分な色づきをみせていた。 気が抜けぬタイトな切り返しが続く走りごたえのあるルートだが、コーナーを覆う紅葉に秋の日が透ける美しさにㇵッとしてスロットルを絞る。


色づき始めた奥三河の紅葉、旧鳳来寺パークウエイで旅を終える


 その後、県道524から県道389へと道なりに走り、長篠方面へくだる県道32を経由して国道151に復帰すると、新東名新城インターから名古屋方面へと帰路に着いた。

 「運動の秋」「食欲の秋」「芸術の秋」云々とこじつけて、結果的に何とも盛りだくさんの秋のツーリングとなった。

 奥浜名の走り応えのあるワインディングから、天竜から奥三河へと続くクルージングルート、そして総括する奥三河の紅葉のワインディングまで、「運動の秋」として申し分ないライディングを満喫できたと思う。

 またその道中では、思いがけず食べ応えのある食堂飯のハシゴとなり、期待以上?の「食欲の秋」で満喫ならぬ、満腹することが出来たと思う(笑)。 加えて、旧国鉄佐久間線の未成線トンネルのワインセラーで仕入れた御土産は、帰宅後に旅の余韻を楽しませてくれることとなった。

 残念ながら、秋野不矩美術館でお預けを食らった「芸術の秋」だが、これから本番を迎える冬場の旅先として土産に持ち帰ったことにしよう。 温暖な浜名湖周辺故に冬場のツーリングも可能であろう。

 盛りだくさんの行程だったせいか、思いつくまま脇道に逸れてばかりのツーリングレポートになってしまったが、晴れふら親父が心に刻んだ旅の思い出だろうとご容赦いただきたい。 一つだけでもその脇道が、くどいレポートに付き合ってくれたバイク乗りの、新しい旅に繋がってくれればありがたい限りなのである。



ツーリング情報


浜松市秋野不矩美術館  静岡県浜松市天竜区二俣町二俣130 (電話)053-922-0315


とん吉  浜松市天竜区船明29 (電話)053-926-0975


浜松ワインセラー  静岡県浜松市天竜区大川 相津トンネル


植山食堂  静岡県浜松市天竜区佐久間町大井2265-10 (電話)0539640225



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