2022/10/28 津で洋食「特別料理メアベア」、青山高原を駆け榊原温泉に漂う(中津軒、湯の庄、関宿深川屋)


 今回は久しぶりに、お気に入りの温泉にまったり漂う旅へと走り出すことにした。 秋も深まり、冬の気配に急かされ峠を巡りたくなる時期だが、公私にわたり前のめりな我が身を緩い旅でリセットしたいところである。

 振り返ってみると、2004年の旧サイト”晴れたらふらっと”公開当初は、土地々々の温泉を目当てに走り出すことも多かった。 しかしこのところ、慌ただしく峠道を駆け巡り飯をかき込んで折り返すことが多く、旅先で温泉を楽しむことも少なくなってしまった気がする。

 ETCが普及した高速度道路を利用し、より遠くの峠や美味いものに出会う機会は増えたのだが、時間に追われる行程で温泉まで楽しむ余裕がなくなったのかもしれぬ。 加えて、経営や後継者の問題を抱えてのことなのか、閉業してしまった昭和親父の琴線に触れる温泉施設も少なくない。

 さて、今回目指したお気に入りの温泉は、七栗の湯として枕草子にも登場する三重県榊原温泉、湯元榊原館に併設された日帰り温泉「湯の庄」である。 大正8年創業の老舗旅館施設を利用した日帰り温泉ゆえ、手軽な日帰りツーリングでも十分な旅情を感じることができるだろう。

 旅の行程としては、先ずは津市街で、明治44年創業の老舗洋食店の特別料理”をいただき、巨大な風力発電施設が立ち並ぶ青山高原のワインディングで腹ごなし、その後お目当ての榊原温泉に立ち寄ることにした。

 また名古屋から津方面へ向かうには、名四国道こと国道23経由のルートを思いつくが、今回は四日市市街の慢性的な混雑を避けるため、東名阪自動車道鈴鹿インターから国道306へと迂回してみることにした。 一方、榊原温泉からの復路では広域農道グリーンロードへと折り返し、関宿を経由して東名阪道鈴鹿インターから名古屋方面への帰路に着く算段である。

 さてさて、緩い温泉旅を思い立っても結局は、美味いものにワインディングとてんこ盛り(笑)。 でも、まあ、目くじらを立てて峠をハシゴするわけでもなく、温泉を軸に楽な移動を試みる結果の行程ゆえ、思惑通りの癒し旅になってくれるだろう。 

巨大な風力発電機が立ち並ぶ青山高原標高800mmから西に伊賀盆地を望む



ルート概要


東名阪自動車道鈴鹿IC-県27→鈴鹿インター西-国306→中瀬-国23→中津軒-国163→東足坂(バス停)-広域農道グリーンロード→三ヶ野北谷(バス停)-市道→ルーブル彫刻美術館-県28→倭2-国165→延命石生水-青山高原公園線(県512)→湯元榊原館日(帰り温泉湯の庄)-県28→いなば園前(バス停)-広域農道グリーンロード→豊久野(バス停)-県10→関宿-県11-フラワーロード→徳原北-国306→鈴鹿インター西-県27→東名阪自動車道鈴鹿IC


ツーリングレポート


 秋の終わり霜降と冬の始まり立冬の狭間、ツーリングのベストシーズンに、心地よい風を切りながら東名阪自動車道を西へと走り続ける。 そして、旅の起点となる鈴鹿インターから駆け降りると、国道306へと走り継いで津方面へと走り出した。

 四日市市街の名四国道の混雑を迂回する目論見のルートだが、正直なところその効果は微妙なところであった。 車線を縫いながら前に出る気力さえあれば、片側一車線で街中をつなぐ国道306よりも、片側二、三車線の名四国道の流れの方が速そうである。 それでも、亀山市街を貫けると通行車両も減り、鈴鹿山脈を背景に田園を駆ける快走路となった。

 結果的に速く移動するだけなら、東名阪自動車道から伊勢自動車道へと走り継ぎ、津インターまで一気に走るのが一番という結論にたどりつく還暦親父である(笑)。 しかし街を繋ぐ国道沿線では、土地々々で愛される景色や美味い店に出会える機会も多くなる。 気力体力の衰えを補う高速道路移動も上手く取り入れながら、肩の力を抜いて旅を楽しみ続けたいものである。


流れの遅い国道306も亀山市街を抜けるとごらんの快走路となる


 国道306が国道23に突き当たると、流れの良い片側2~3車線道路で一気に津市街へと移動し、お目当ての老舗レストラン中津軒にたどり着いた。 タイミングよく開店直後の来店となり、店脇の駐車場にZX-6Rを停め一番乗りでテーブルに案内されることとなった。

 明治44年(1911年)創業当時の洋館は戦災で焼失したが、その後再建された現在の店舗も半世紀の時を刻んでいる。 ”地デジ放送”を映す家具調のブラウン管テレビをはじめ、店内には昭和親父の郷愁をそそる懐かしい雰囲気が漂う。


明治44年創業の老舗レストラン中津軒、店内には懐かしい雰囲気が漂う


 コロナ対策で間引きされたテーブルに着くと早速、メニューの別欄に掲げられた”特別料理メアベア”1, 000円也を注文することにした。 東海地方で数軒の老舗洋食店にだけ伝わるメアベアは、その歴史や名前の由来もはっきりしておらず、中津軒で特別料理が謳われる所以であろう。 他のランチメニューと異なり単品での提供になるので、ライス300円也とミニサラダ300円也を追加注文することにした。

 そして配膳された特別料理メアベアは...たっぷりのデミグラスソースをまとって焼き上げられ、それを覆う半熟卵が食欲をそそる。 鶏肉と牛肉、適度な食感が残る甘い玉ねぎも美味いが、何と言っても主役は、100年を超える老舗洋食店に伝わるデミグラスソースであろう。

 コクのある複雑な味わいながら、まろやかで後味もサッパリとしている。 追加注文した炊き立てご飯との相性は抜群で、新鮮な玉ねぎが香るドレッシングでいただくサラダは良い口直しになる。 謎の料理名だけでなく、その美味さも、特別料理の肩書きに相応しいと感じる昼食となった。


創業100年を越えて続く洋食店の特別料理メアベア


 充実した昼食を終え、中津軒から津城跡の北側を通り国道163に合流すると、津市街を抜けて津市と伊賀市の境に広がる青山高原に向けて走り出した。 そして、JR紀勢線、国道23中勢バイパス、さらに伊勢自動車道と交差しながら内陸へと走り続けると、徐々に沿道の店舗や住宅もまばらとなり、山間の快適なツーリングルートになってくる。

国道163で津市街を抜けると通行車両もまばらな山間の快走路となる


 その後、伊賀方面へと続く国道163から広域農道グリーンロードへと分岐して、青山高原への駆け上がりへ続く国道165方面に南下してゆくことにした。

 広域農道グリーンロードは、津市地内の県道亀山白山線を起点として、国道163そして国道165と交差して、さらには松阪市の三重県中央卸売市場に至る広域農道。 伊勢湾岸の市街地を走る幹線国道の混雑を、内陸丘陵を走る快走路に迂回することが出来る。 今回のツーリングでも、榊原温泉から関宿へと北上する帰路でたどることにしており、中勢地域へのツーリングには欠かせないルートである。


国道163から国道165へ広域農道グリーンロードを南下する


 さて、広域農道グリーンロードに分岐すると、緩やかな弧を描きながら小さな丘陵のアップダウンが続く。 移動ルートとしては申し分ない快走路だが、正直なところ車体を傾けてライディングを楽しむには物足りない。 早速、国道165に交差する手前でルーブル彫刻美術館方面へと分岐して、道中の峠道で少しだけペースを上げて腹ごなしすることにした。

 グリーンロードからの分岐は分かりにくいが、ルーブル彫刻美術館に隣接する大観音寺の大看板が目印になるだろう。 短い距離だが、適度なアップダウンを伴う路面コンディションの良いワインディングは、街中を繋ぐツーリングルートでライディングを楽しめる重な区間となる。

グリーンロードからルーブル彫刻美術館方面に分岐した峠道で腹ごなし


 走りごたえのある峠道を独り占めにして我を忘れかけていると...巨大な”サモトラケのニケ”、”ミロのビーナス”、そして”自由の女神”の彫像が目に飛びこみ現実へと引き戻される。 それら巨大な彫像の正体は、ルーブル彫刻美術裏手の野外展示である。 何ともB級感ただよう現実ではあるが、大観音寺敷地に併設されたこの美術館は、正真正銘パリのルーブル美術館との姉妹館らしい。

ルーブル彫刻美術館に立つ巨大な彫像...本家ルーブル美術館の姉妹館


 さて、1987年に開館したルーブル彫刻美術館、先代館長がルーブルに幾度も足を運び姉妹館の許可をとりつけたもので、ルーブル美術館の彫刻1300点から直接型どりされたレプリカが展示されている。 今回は、ツーリングルートのランドマークとしての紹介だが、以前友人達とのツーリングの道中で訪れたことがある。

 入館料1,500円也を支払い館内に入ると、巨大な千手観音を背景にしたサモトラケのニケのカオスな展示にジャブをくらい、大理石の風合いが見事なミケランジェロの傑作、二体の奴隷像がブロンズ色に輝く様にノックアウトされる。

 本家のパリルーブル美術館を訪れた時には、もっと若いころにここを訪れたかったと後悔したことを思い出す。 逆に、刺激が強すぎる展示に胸焼け気味になった津のルーブルでは、感受性をすり減らしたこの歳の訪問でよかったと胸をなでおろすこととなった(笑)。


パリのルーブルと津のルーブル、どちらが紀元前2世紀生まれのニケでしょう(笑)


 ルーブル彫刻美術館の脇を抜け、さらに近鉄大阪線の橋梁をくぐって国道165に合流すると、青山高原への駆け上がりに向けて緩やかな弧を描く山間道へと走り出す。

 雰囲気のあるワインディングでペースアップしたくなるところだが、名張方面に向けてそれなりの通行車両もあり、移動と割り切って先行車に続く。 そして津から伊賀への市境を越える青山トンネルを貫けたところで、いよいよ、青山高原公園線(県道512)に分岐して青山高原へと駆け上がって行った。

 伊勢の国(津市)と伊賀の国(伊賀市)に跨る青山高原は、布引山地の主峰笠取山(標高842m)の南北約15kmに広がる標高700~800mの高原で、室生赤目青山国定公園に指定されている。 また、若狭湾から琵琶湖を経て伊勢湾へ抜ける風の通り道に位置し、2003年から稼働する青山高原風力発電所(20基)、そして新青山高原風力発電所(40基)など、合わせて89基の風力発電施設が稼働している。 笠取山の地名も笠が取れるほど強く風が吹くことに由来するらしい。

 国道165から青山高原公園線に分岐した林間ワインディングを一気に駆け上がると、徐々に姿を現す巨大な風力発電機群の壮観な眺めに圧倒される。 また、トイレ休憩可能な青山高原ふるさと公園をはじめ、東に伊勢湾、西に伊勢盆地を望むビューポイントもあり、相棒を停めて一息つきたいところである。

 その後、巨大な風車を足元から見上げながら布引山地の尾根伝いを駆け抜けると、道なりに榊原温泉方面へ下って行くことにした。


巨大な風力発電機を見上げながら青山高原を駆け抜ける


 青山高原から榊原温泉への下りが始まると、高原を快走する青山高原公園線(県道512)は鬱蒼とした林間酷道へと姿を変える。 二年ほど前にGSX-R1000からZX-6Rに乗り換えた我が身、個人的には、ミドルサイズSSの軽い取り回しを感じる場面であるが、正直なところライディングを楽しめるルートとは言い難い。 行程的に許されるのであれば、一旦往路の国道165へと折り返して、広域農道グリーンロード経由で榊原温泉に立ち寄った方が得策かもしれぬ。


青山高原から榊原温泉への下り、青山高原公園線はタフな林間酷道となる


 兎にも角にも、離合も間々ならぬ林間酷道を無事に榊原温泉まで下りきると、お目当ての日帰り温泉「湯の庄」にたどり着いた。 

 レポートの冒頭でも紹介したが、榊原温泉は七栗の湯として枕草子にも登場する名湯で、古くからお伊勢参りの人々の旅の疲れを癒してきた歴史を持つ。 そして、敷地内に源泉が湧く湯元榊原館に併設された湯の庄では、31.2℃のトロッとしたアルカリ性単純泉の源泉かけ流しに漂うことができるのだ。 加温された浴槽で温まりながら、ぬるめの温泉に漂っていると時間を忘れ、地球の重力だけでなく精神的な重力からも解放されたような気持になる。

 利用料金は大人1,000円也とちとお高めだが、創業から100年を越えて老舗旅館を支えてきた源泉への自信であろうか。 実際のところ、忙しない烏の行水親父が時間を忘れて漂いたくなる名湯に、二時間の利用時間制限が設けられるのも納得させられる。


湯元榊原館に併設された日帰り温泉「湯の庄」で源泉に漂う


 榊原温泉で身体と心に纏わりつくストレスをかけ流して走りだすと、広域農道グリーンロード経由で旅を折り返すことにした。 流れの良い広域農道、源泉で流しきれなかったストレスも、湯上りの心地よい風で飛ばされて行くような気がする。

 その後、小さな丘陵を越えながらグリーンロードを北上すると徐々に交通量も増え、交差した県道10に分岐して関宿方面へと舵をきった。 最寄りの伊勢自動車道芸濃インターから東名阪道自動車道経由で手早く帰還することも可能だが、東海道五十三次47番目の関宿に立ち寄り、家族への土産を仕入れて帰ることにした次第である。

 そして、分岐した県道10(伊勢街道)を道なりに走ると、東名阪道関インターの高架をくぐり、さらに国道1(東海道)と交差して、関宿の東の入り口となる東追分にたどり着いた。 旧東海道から伊勢街道への分岐となる東追分には、伊勢神宮の式年遷宮で移された鳥居が立っており、伊勢神宮参拝の玄関口になっていたことを想わせる。

 東西追分間1.8km程の旧街道には、江戸から明治にかけて建てられた200軒以上の町家がつながり、国の重要伝統建造物保存地区にも指定されている。 旧東海道沿いの宿場にゆっくりと走り出せば、古の宿場にタイムスリップしたような錯覚を覚えるかもしれぬ。 

 時間が許すならば、亀山市関支所脇にある無料観光駐車場に相棒を停め、ゆっくり散策してみるのも良さ気である。 関宿の町並みを見渡すことが出来る百六里亭の展望所や、越えることができぬ限界を表す「関の山」の語源となった、関曳山祭りの山車蔵など見どころも多い。

 そして今回立ち寄ったのは、江戸時代寛永年間創業の老舗和菓子店深川屋、創業約380年に渡り造り続けられている銘菓「関の戸」を購入して帰路に着く算段である。



創業約380年の「深川屋」に立ち寄り銘菓「関の戸」を購入


 購入した銘菓「関の戸」は、赤小豆のこし餡をぎゅうひ餅で包み、阿波特産の「和三盆」をまぶした一口大の菓子、江戸時代から変わらぬ配合や作り方が現在まで伝えれている。 素朴な味わいなのに...というよりも、素朴な味わいだから、続いてきた商品、そして商売なのかもしれぬ。 現れては消える映え狙いの商品とは一線を画す。

 ところで、関の戸を考案した服部伊予保重は忍者の末裔だったらしい。 残念ながらKawasaki村で生まれたNinja乗りへの割引など、時代を越えた特典は無さそうである(笑) 

 銘菓「関の戸」、ぎゅうひ餅で包まれたこし餡、和三盆がまぶされた素朴な味


 関宿を後にして県道11へ走り出すと、道なりにフラワーロードへと走り継ぎ、緩やかな丘陵地を快走する。 その後、新名神高速道路、東名阪自動車道の高架下をくぐり、交差する国道306に分岐して、旅の起点となった東名阪自動車道鈴鹿インターから名古屋方面へと帰路に着くこととなった。

関宿を後にフラワーロードを快走し、東名阪道鈴鹿ICから帰路に着く


 公私にわたり前のめりがちの己をリセットしようと走り出した温泉旅、その思惑通りに榊原温泉の源泉かけ流しに漂い、心も体もリラックスできたような気がする。 また、走りごたえのある青山高原のワインディングでは、巨大な風力発電機群の迫力に圧倒されながらも、丁度よい加減にライディングを楽しむことができた。

 そして最後に、あらためて旅を振り返ってみると、知らぬ間に、明治創業の老舗洋食店、大正創業の老舗温泉、そして江戸創業の老舗和菓子屋と、時代を越えて続く老舗を巡っていたことに気いた。

 新型コロナウイルス感染症や、ロシアのウクライナ侵攻等々、自分が生きている間にこんな世の中がくるとは思いもしなかった。 当たり前に出かけていた場所に出かけられなくなり、当たり前に手に入っていたものが手に入らなくなり、商売を続けることが出来なくなった店を目にすることも多くなった。

 事態が良くなる兆しも見えず、まったくもって気が滅入るばかりだが...大きな戦争や災いを乗り越えて続いてきた老舗を訪れ、その営みを支えてきた商品に触れて、志を捨てずに頑張っていれば何とかなるものなんだなと、少しばかりホッとさせてもらった。 毎度のことながら、高名な経済学者の論文や評論家の解説よりも、時代を越えて続く老舗の美味いものや心地よい温泉に、無言の説得力を感じる次第である。 



ツーリング情報


レストラン 中津軒  三重県津市中央5-5(三重会館 北) (電話)059-228-2748


日帰り温泉 湯の庄  三重県津市三重県津市榊原町5970 (電話)059-252-0206


深川屋  三重県亀山市関町中町387 (電話)0595-96-0008


ルーブル彫刻美術館  三重県津市白山町佐田東谷1957 (電話)059-262-1111



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