2022/04/16 伊那谷北上、信州蕎麦のルーツを食らう(伊那南部広域農道、行者そば梅庵、塚原信州珍味)


 2022年4月2日(土)から高速道路料金の「二輪車定率割引」が始まった。 ネットで見かけた「普通車料金の半額!」の触れ込みでそれを知ったが、実際のところは土日・祝日のETC30%割引が37.5%割引になるというものらしい。 軽自動車の20%割引×土日・祝日の37.5%割引で、普通車通常料金の50%相当になるという計算であろう。

 また、割引の適用は対象道路内で一回の走行距離100kmを超える場合に限られ、利用前にNEXCO中日本「速旅」会員登録と利用日申請が必要とのことである。 利用区間距離や割引料金は分かりにくいので、特に割引の適用が微妙な場合、NEXCO西日本の検索サイトで事前確認しておいた方がよさそうである。

 前置きが長くなったが、早速「二輪車定率割引」の恩恵を受けてみようと、高速道路移動を軸にしたツーリングに走り出すことにした。 そして、名古屋から中央道を北上し目指したのは、中央アルプス小黒川渓谷で蕎麦屋を営む「梅庵」、信州そばのルーツとも言われる「行者そば」がいただける店である。

 往路では梅庵の営業開始時間に合わせて、最寄りの中央道小黒川スマートICまで一気に北上することにした。 一方復路では、伊那市街から県道18と伊那南部広域農道を走り継ぎ、天竜川に沿って伊那谷を南下するワインディングをたどることにした。

 その後、三遠南信自動車道(無料区間)と国道153を移動して、下伊那郡阿智村の「花桃の里」に立ち寄り、最寄りの園原ICから帰還する全行程である。

 さてさて、プラス7.5%の割引に釣られて不要不急の高速道路利用に日和った感はあるが、日本高速道路株式会社に「二輪車の利用促進や観光振興に貢献したい」の旗印を掲げられると、バイク旅の奥深さを後世に伝えたい還暦親父が乗らぬわけにはいくまい(笑)。


中央アルプス小黒川渓谷、香り高い行者そばを供する「梅庵」



ルート概要

中央道小黒川スマートIC-市道→ますみヶ丘-伊那西武広域農道→ますみヶ丘南-県202→行者そば梅庵-県202→市民体育館西-市道-小黒川大橋北-ナイスロード→塚原信州珍味-ナイスロード→竜頭橋北-県18→火山峠-県18→道の駅田切の里-国153(伊南バイパス)→飯島駅東-県200→日曽利橋-県18→渡場イチョウ並木-県18→河野大宮神社-伊那南部広域農道(南信州フルーツライン)→富田の里楽珍館直売所-県83→飯田上久堅・喬木富田IC-三遠南信道(無料区間)→飯田山本IC-国153→昼神温泉郷-国256-県89→花桃の里-県89→中央道園原IC


ツーリングレポート


 4月も中旬に差し掛かり、名古屋地方の気温は20℃半ばの汗ばむ陽気となっている。 春の陽気に浮かれるバイク親父は、Tシャツに皮ジャケットを羽織った軽装で走り出すも、ツーリングの朝は10℃前後にまで冷え込む予報だったらしい。 実際のところ、中央道を北上するにつれ体感気温は下がって凍えながらの移動になってしまった。 能天気な軽装で北へ走り出し、標高を稼ぐルートで凍えるのはお約束、鼻水をたらしながら学習機能が欠如した我が身を反省する。

 そういえば名古屋の桜はとうに散ってしまったが、伊那市東部の高遠城址の桜まつりは大詰めを迎えているらしい。 伊那市で折り返す南信州ツーリングの道中では、名古屋では既に散ってしまった桜を愛でることも出来そうだ。 そんな思惑通り、寒さに耐えきれず駆け込んだ恵那狭SAで遅咲きの八重桜の出迎えを受ける。


朝の冷え込みに駆け込んだ恵那狭SA、遅咲きの八重桜がお出迎え


 恵那峡SAで一息ついて再び中央道に走り出すと、残り半分ほどの行程を経て小黒川スマートICにたどり着いた。 早速小黒川スマートICから降りると、伊那西部広域農道を経由して、行者そば「梅庵」をめざし小黒川沿いの県道202をさかのぼりだした。

 中央アルプス将棊頭山(2,730m)から流れ出す小黒川、その上流小黒川渓谷に信州蕎麦発祥の地とも言われる内の萱集落がある(現在の伊那市荒井内の萱)。 奈良時代に修験道の開祖とされる役小角が内の萱に立ち寄り、世話になった礼として木食ようの蕎麦の種を渡した...という伝説が、信州そば発祥の地と言われる所以らしい。

 その伝説に由来する「行者そば」は、伊那地方に古くから伝わる辛味大根と焼き味噌でいただくそばで、同じ伊那地方で有名な「高遠そば」と同様の味わい方である。 その内の萱で営業する「梅庵」では、八ヶ岳山麓の玄そばの石臼引きと、小黒川渓谷の湧き水にこだわった、平打ち黒目十割の香り高い行者そばをいただくことができる。

 さて、小黒川を標高約1000mにまで遡ると、内の萱集落に差しかかったところで満開の桜のお出迎えを受ける。 おもわずZX-6Rのエンジンを止めて、かすかな小黒川のせせらぎを聴きながら遅まきの花見に興じる。 振り返ると伊那谷越しに南アルプスの稜線が続く眺望。


中央アルプスに向け小黒川を遡り、見事な満開の桜の出迎えをうける


 最近は、リーマン稼業で仕切るプロジェクトが忙しく、昨年度の〆と今年度の仕込みでバタバタ、ゆっくりと眺める余裕も無いうちに街の桜は散ってしまった。 親父の鼻腔に漂い出したVRな行者そばの香りを脇に置いて、慌ただしかった時間を取り戻すように花をみあげていると...渓谷沿いに白い雲が降りてきて小雨がぱらつきだした。

 突然の雨に、バタバタと気ぜわしく生きる己の性分を思い出すと、ZX-6Rのエンジンをかけて行者そば「梅庵」にむけて走りだす。 そして、タイミングよく開店直前の店にたどり着くと、入り口の名簿の最初に名を連ねて営業開始を待つことになった。

 農家を改装したどこか懐かしい蕎麦屋、通り雨を凌ごうと庭先の納屋にZX-6Rを停めさせてもらう。 子供の頃夏休みに入り浸った、祖父母の家に遊びに来たような錯覚を覚える昭和親父。


たどり着いた行者そば「梅庵」、庭先の納屋で乗り手を待つZX-6R


 その後、遠方からの客も多い人気の蕎麦屋らしく、幾組かの客が名簿に名をつらねたが、思惑通り一番乗りで座敷に案内されることとなった。

 そして注文したのはもちろん、太打十割「行者そば」の並盛1,100円也、さらに鴨汁ハーフ440円也。 朝の冷え込みに凍えた往路の道中、香ばしく温かいそば茶にホッとしながら配膳を待つ。

 しばらくして運ばれてきた行者そばは、思い描いた通りのツヤツヤの黒目太打ち、薬味には荒塩、ツユ、辛み大根、焼き味噌、そしてネギが添えられている。 まずは塩をつまんで頬張った一筋は、十割とは思えぬもっちりとした触感で食べ応え十分、噛むたびにそばの良い香りが鼻に抜ける。 さらに、節の効いたツユはまろやか、辛み大根でさっぱり、やき味噌を加えてコクを感じる。 薬味マニアの親父も思わず唸るバリエーション、順番を間違えないように味の変化を楽しみたいところある。

 そして、少し遅れて運ばれてきたのが滋味深い半鴨汁、コクのある鴨の油と甘辛いツユの相性に、思わずナレーションを入れそうになる孤独のグルメ親父(笑)。 シャキシャキとした歯ごたえはウドであろうか? 季節に応じて入れられる野菜の食感がアクセントになる。 行者そばの薬味を一通り楽しんだ後、鴨汁につけていただくそばもまた格別であった...ん~っ、一枚のそばでこの満足感♪ 「二輪車定率割引」に勝るお値打ち感に感謝しながら、信州そばのルーツを味わい終えることとなった。


太打十割の行者そば、あら塩、つゆ、辛み大根、焼き味噌、ネギでいただく



滋味深い鴨出汁、季節の野菜たっぷりの半鴨汁、そばをつけても旨い


 会計を終えて極上の食事の礼を告げて庭に出ると、パラついていた雨は上がり晴れ間が広がっていた。 早速、身支度を整えて納屋のZX-6Rを引き出すと、往路の県道202を小黒川下流へと下って行き、さらに中央道を越えて伊那市街へと入って行った。

 そしてナイスロードが伊那市役所を過ぎたところで、創業74年を超える「塚原信州珍味」にたどり着いた。 ご存知の通り伊那谷は昆虫食で有名な地域、イナゴ、蜂の子、ざざ虫など伊那名物の佃煮を、土産に仕入れて帰る意気込みなのである。


「塚原信州珍味」、伊那名物イナゴ、蜂の子、ざざ虫など佃煮の老舗


 ところで、塚原信州珍味のホームページでは、昆虫食が優れている理由が分かりやすく解説されている。 ビタミンBやミネラルなど栄養バランスが良い、脂質や炭水化物が少なくプロテイン豊富、飼育面積と餌効率が高い(10kgの餌で約9kの昆虫)、温室効果ガスの排出量が少ない等々。 栄養学から地球環境に関するまでなるほどと思える考察が並んでいる...っが、婆ちゃんの佃煮が評判になって商売になった、って方が分かりやすいかも(笑)。

 早速店内に入ると、冷蔵庫で佃煮や甘露煮に艶良く炊きあげられた虫さん達のお出迎えを受ける。 昆虫食土産を購入して帰る気満々であったが、身体の線がはっきり出たセクシーな装いの、イナゴ、蜂の子、ざざ虫、さなぎさん達に臆した親父は、鮒とわかさぎの甘露煮、川海老の佃煮、鯉のうま煮をご購入(汗)。 生まれ育った九州福岡の筑後川で慣れ親しんだ、川魚の郷愁とともに帰宅することにした次第である。 虫さん達との同伴はまた今度(笑)


イナゴ、蜂の子、ざざ虫、さなぎ...伊那名物の佃煮や甘露煮が並ぶ


 伊那名物の佃煮をヒップバックに収めてナイスロードに走り出すと、県道18に分岐して伊那市街を抜けることにした。 復路では、西側を中央アルプス(木曽山脈)、そして東側を伊那山地と南アルプス(明石山脈)に挟まれた伊那谷のワインディングを、天竜川の流れに沿って南下するルートをたどる。

 凍えることになってしまった往路の中央道、さらに小黒川渓谷では雨雲に追われることになってしまったが、昼食を済ませ伊那市街に下ってくると日が差し暖かくなってきた。 伊那市街を抜けて振り返ると、駆け降りてきた中央アルプスの稜線に見送られ、移動とわりきった往路のうっ憤をはらそうと、南信州ワインディングへの期待が高まる。


県道18で伊那市街を抜けて振り返り、中央アルプス(木曽山脈)の見送りを受ける


 県道18は伊那の平野部から徐々に伊那山地麓の山間へと駆け上がり、火山(ひやま)峠で伊那市から駒ケ根市の市境を越えることになる。 その後も、中央アルプスの稜線を望む天竜川沿いの平野部と、伊那山地麓の山間部の峠道が交互に現れる変化に富んだワインディングを楽しむことが出来る。 峠を抜けて山際に出ると、急に目の前に現れる伊那谷越しの中央アルプスの景観には毎度感動させられる。

 景観的には往路に盛り込んで北上するルートをたどった方がお勧めである。 伊那山地に遮られて南アルプス側の眺望はひらけぬが、天竜川越しに中央アルプスの稜線を正面に望みながら走ることが出来るだろう。  

 さて、火山峠にむけて駆け上がって行くと徐々に山深くなり、終にはタイトな九十九折れの峠越えとなる。 国道153をバイパスする幹線県道なのでそれなりの交通量だが、通行車両の流れは速くストレスを感じるほどではないだろう。 今回は先行車に先を譲ってもらっての独り旅、上りは何とか、下りヘアピンもそれなりにやり過ごす(笑)。


県道18火山峠の九十九折れ、伊那市から駒ケ根市に駆け降りる


 県道18で火山峠から駆け降りて天竜川を渡ると、国道153(伊南バイパス)沿いの道の駅田切の里にたどり着きトイレ休憩をとることにした。 休憩後、国道153で天竜川岸をトレースする県道18の狭道区間をバイパスして、県200で再び天竜川沿いの県道18に合流して南下を続けた。 県道18に復帰してからは、しばらくは天竜川沿いの緩やかな快走路や集落をぬける区間が続き、河野大宮神社に差し掛かったところで伊那南部広域農道へ駆け上がる。  

 伊那山地麓の山間を走る伊那南部広域農道、適度なアップダウンと切り返しが楽しめる極上のワインディングである。 所々に広域農道の案内看板が立っているが、分かりにくい分岐も存在するので、事前にルート確認しておいた方が無難である。

 時折、見通しが悪い峠道から日当たりの良い丘陵に出ると、この季節は紅白の可憐な花が咲くりんご農園の景色が広がる。 そして、農園の先には伊那谷越しの中央アルプスの眺望が広がり、相棒のエンジンを停めて、これぞ南信州の景観に時を忘れる。


伊那南部広域農道のリンゴ畑越しに、伊那谷と中央アルプス眺望に振り返る


 伊那南部広域農道をそのまま走り続けると、県道1を経由して天竜峡へと貫けることができる。 そのまま山岳県道1で泰阜村を貫けて、温田から売木方面へと走り継ぐのが、ワインディング三昧の帰還ルートになる。 しかし今回は、伊那南部広域農道から県道83へと道なりに走り継ぎ、飯田上久堅・喬木富田ICから飯田山本ICまで、三遠南信自動車道の無料区間を利用することにした。

 そのまま、飯田山本ICから中央道で名古屋方面への帰路に着くことも可能だが、国道153経由で阿智川を遡った”花桃の里”に立ち寄り、中央道園原ICから帰還することにした。 小黒川渓谷の桜の花、伊那南部広域農道のりんごの花、そして”花桃の里”の桃の花で旅を締めくくろうというメルヘン親父の思惑である(笑)。 

 しかし、メルヘン親父の思惑通りに進まないのが現実、阿智川を遡るにつれ体感できるほどに気温は下がり、花桃はまだ満開には程遠いタイミングであった。 咲き始めた桃の花を背景にZX-6Rの記念撮影を済ませると、日が傾き冷え込みだした阿智川を下り中央道園原インターから名古屋方面へと帰路に着くことにした。 もちろん園原ICからの行程で、二輪車定率割引の前提となる100km以上の走行距離が確保できることは確認済みである。


旅の終わりに阿智川を遡り”花桃の里”へ、咲きだして間もない花桃に見送られ帰路に着く


 さて走り終えてみると、朝晩の冷え込みで凍える高速道路移動は想定外だったが、思惑通りに、中央アルプスの麓で折り返した南信州ワインディングを満喫する旅となった。 お目当ての行者そばは、期待通り食べ応えのある香りと食感、そして薬味のバリエーションを楽しめる一品であった。 そしてルート沿いには、桜、りんご、そして花桃まで、南信州の春を彩る花々が咲き乱れ、多忙な日常で見逃した春を巻き戻して満喫できたような気がする。

 二輪車定率割引に釣られて走り出したツーリングではあったが、正直なところ割引を得るために余分な高速道路料金を支払ったような気もする。 しかし、まあ、不要不急とされる酔狂なバイク道楽で、多くの人達がかかわる二輪産業や地域観光に貢献できるのであれば、それも良しとしよう。

 念のため、NEXCO中日本のサイトで利用料金を照会してみると、通常の休日割引(▲30%)ではなく二輪車定率割引(▲37.5%)が適用されていることを確認できた。 軽自動車との識別のための事前申請の煩わしさや渋滞緩和のためにGWは適用外になるなど、技術的な改善の必要性やコンセプトの矛盾なども感じるが、これからも二輪車定率割引をうまく利用してロングツーリングを楽しみたいものである。

 


ツーリング情報


行者そば梅庵  長野県伊那市荒井内の屋7088−2 (電話)0265-76-5534

塚原信州珍味  長野県伊那市上新田2570-1 (電話)0265-76-0591



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