#映画 「イージー・ライダー」

 映画「イージー・ライダー」は、監督デニス・ホッパーと制作ピーター・フォンダが、主演も務めた1969年のアメリカ映画、ジャック・ニコルソンの出世作でもある。 従来の娯楽映画と一線を画し、社会風刺や芸術性を表現したアメリカン・ニューシネマの代表作。 インディーズ作品をハリウッド映画が配給した初めての成功例とされ、またロケーション撮影によるロード・ムービーの先駆的作品でもある。 意図的か否か定かでは無いが、夕焼けのオートバイ走行シーンで路面に映る映写カメラの影が、ドキュメント的な臨場感を漂わせている。

 ストーリーは、コカインの密輸で大金を儲けた、ピーター・フォンダ演じるワイアットと、デニス・ホッパー演じるビリーが、二台のピッカピカの1965年製H-Dパンヘッドチョッパーで、カリフォルニア州ロサンジェルスから、ルイジアナ州ニューオリンズの謝肉祭を目指して旅立つところから始まる。 ヒッピー・スタイルのワイアットが腕時計を外し投げ捨てるシーンと、バックに流れるBorn to Be Wild / Steppenwolfが印象的なオープニング。

 そしてこの二人、能天気に旅に出てえらい目に遭うことになる...ストーリー展開と衝撃的な結末を紹介するのは控えたいが、今の日本人には理解しにくい映画を観やすくするために、当時のアメリカがかかえていた時代背景など触れておきたい。

 還暦親父が生まれた60年代のアメリカでは、赤狩りによる理不尽な迫害やベトナム戦争の泥沼化により、従来の価値観や正義に疑問を持った若者たちのヒッピームー・ブメントが生まれていた。 その反動で、自分たちの価値観や暮らしを脅かすものとして、宗教や恋愛観が異なるヒッピーを極端に毛嫌いする、保守的な人たちのモラルパニックが起こっていた。

 アメリカ国内で地域差もあり、西海岸や北部は革新的でヒッピーにも寛容な人が多く、ワイアットとビリーが旅だったロサンジェルスはヒッピー文化が生まれた地でもある。 それに対し二人がめざしたルイジアナ州のニューオリンズは、閉鎖的で最もヒッピーを嫌悪する中南部の代表的な土地だった。 目的地が近づくにつれて、二人が理不尽な仕打ちを受けるには、そんな背景があったわけである。

 ただし、一方的に保守的な価値観を否定するのではなく、それぞれの良い面、悪い面を、客観的に比較しているように感じる。 二人が道中で訪れた、昔ながらの質素な暮らしを営むカトリック家族、逆にドラック漬けで食料の調達もままならぬヒッピー村...実際のところ、革新的あるいは保守的と、十羽一絡げにその良し悪しはかたれぬだろう。 映画タイトルの”Easy Rider” は、文字通り気軽に乗せてくれるライダーではあるが、やらせてくれる女や軽い男の意味があり、ヒッピーを揶揄するスラングでもある。

 九州福岡で生まれ育った昭和親父の記憶...学校から帰った土曜の午後、吉本新喜劇を観終ったテレビで放映されたこの映画、そのオープニング曲は親父の頭から消えず、「ボ~ントゥ・ビ・ワァ~イルド~♪」などと、未だに令和のライブでギターを掻き鳴らす。 黒船に乗ってやってきたハードロックやオートバイが、自由や多様な価値観の象徴であることは肌で感じていたが、この映画の社会的な背景なんぞに気付いたのは随分と大人になってからである。

 イージー・ライダーが公開されてから半世紀が経つが、アメリカが抱える事情は何も変わっていないような気がする。 中南部の共和党政権基盤を握ったトランプが過激な移民政策を煽って政権を握り、西海岸や北部の民主党政権基盤を握ったバイデンがそれを奪い返したが、世界一の大国のヒステリックな分断は続いている。 白人警官が黒人少年を射殺し、黒人の若者がアジア人を襲撃する...モラルパニックの先に得るべきものが無いことを半世紀前の映画が示唆しているのに、学ぶどころか世界中に蔓延している気すらしてくる。

 そして還暦を過ぎて言えるのは、国やら人種やらの違いがあっても、世の中には二種類の人間しかいないということかもしれぬ。 現状を受け入れてやるべきことを考え、新たな一歩を踏み出せる人、一方で、現状を受け入れらず恨みつらみに終始し、現状を抜け出せない人。 特に後者は、恨みつらみが社会的な弱者への身勝手な攻撃となって表出する。

 我が国日本でも、障がい者施設の襲撃、アニメ工房や医療施設の放火等々、おぞましい事件が報道される度に、少なくとも己の口から、恨みつらみの類は絶対に口にしないと肝に命じ直す。 言葉は思考となって刷り込まれ、さらにネガティブな言葉となって吐き出され、場合によっては集団となる、その先に現状より良い状況が待っているとは思えないのである。

 




晴れたらふらっと

風を切るオートバイは旅の相棒、そして生きる意味となった

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