【アーカイブ】2019/07/05 北海道週末ツーリング(支笏洞爺国立公園札幌食倒れ)


旅の思い出


 2024年の梅雨入り間近の東海地方、蒸し暑さによる日常のストレスだけでなく、週末の雨で走りだせぬ鬱憤が溜まる季節が訪れようとしている。

 今回のアーカイブレポートでは、今から5年前の2019年の梅雨時、梅雨の無い北海道を走りたい衝動にかられ敢行した、週末ツーリングを紹介してみたい。 金曜日に休みを取って北海道に移動し、土曜日に日帰りツーリング、日曜に名古屋に帰還するという日程である。

 当然ながら、当時の相棒GSX-R1000と伴に北の大地へ移動する手番は確保できず、乗り手だけが中部国際空港から新千歳空港へ飛んで、現地のレンタルバイクで札幌発の日帰りツーリングを満喫するという段取りである。

 早朝出発の日帰りツーリングを考えると、前日入りのフライトは必須かもしれないが、ツーリング当日に帰還する遅い便を選べば、土日だけの弾丸プランを組むことも可能かもしれない。 しかしまあ、折角の北海道、可能であればツーリング前後日程で、生ビールを傍らに独り北海道物産展を満喫したいところである(笑)。

 そしてもう一つこの旅をアーカイブした理由は、現地でレンタルしたオートバイが、現在の相棒W800streetの原点とも言える、TRIUNPH BONNEVILLE T100だったことである。

 現在のT100の二気筒エンジンは水冷化され、クランク角も270℃に進化?しているが、レンタルした車両は空冷二気筒、360°クランクエンジンの最終型であった。 今となってみれば、空冷360°二気筒エンジンにこだわり続けるカワサキWシリーズの方が、御本家オリジナルのトルク感や乗り味を引き継いでいるような気もする。

 さらに、W800シリーズは2022年にEuro5準拠の排ガス規制をクリアすると同時に、日本独自の近接排気音規制に縛られぬ欧州UN R41規格準拠となり、その御本家に負けずとも劣らぬ排気音がそう思わせる所以かもしれぬ。

 ネオ・レトロなジャンルなど興味なく、空冷二気筒エンジンのうんちく?を語ることも無かった頃にレポートした、己の浅~いインプレなど振り返ってみるのも面白い(笑)。


現在の相棒W800 street、ボンネビルT100が諦めた空冷にこだわり続ける



はじめに


 梅雨空の週末が続き走りだせぬフラストレーションが積もるバイク親父、加えて本格的な夏に向けて蒸し暑さが追い打ちをかける。 そして、雨雲が立ち去らぬなら己が立ち去ろうと、衝動的に梅雨のない北海道行きのフライトを予約する(笑)。

 これまでも、出張や家族旅行で幾度か訪れた北海道だが、オートバイツーリングの企画は初めてのこと。 週末の限られた時間、相棒のGSX-Rと苫小牧行きのフェリーに乗ることは叶わず、レンタルバイクでお気軽に日帰りツーリングを楽しもうという算段なのである。


梅雨前線を飛び越して北海道へ、雲は多いが週末の降水確率10%!


 初夏の爽やかな季節、国内外から大勢の観光客が押し寄せる北海道、残り少ない宿とレンタルバイクを探し終えると、ツーリングの行程やら食事などを練る段取りとなった。 急に思いついた北海道ツーリングを、いつもの週末と同じ感覚で手軽に実現できるとは、何とも便利な時代になったものである。

 今回はフライトがとれた金曜から日曜にかけての旅程で、宿泊地の札幌を起点に土曜の日帰りツーリングを計画することにした。 前後の移動日が勿体ない気もするが、地元の美味いものをたらふくいただき、久しぶりの北海道を満喫するつもりである。

 そして肝心のツーリングの行程は、札幌市街のレンタルバイク店を起点に、札幌の南西部に広がる支笏洞爺国立公園を時計回りに周回するルートを計画した。 支笏湖と洞爺湖の二大カルデラ湖、羊蹄山や有珠山などが集まった日本有数の火山地帯を、千メートル近い峠を越える山岳国道で巡る旅である。

 羊蹄山を望む中山峠では元祖をうたうあげいも、内浦湾を眺望する洞爺湖町では新鮮なうに丼、支笏湖岸では旬の天然ヒメマス、そして旅を終えた札幌市街でジンギスカンと、バイク親父の心と胃袋を満タンにする旅となった。

  


ルート概要


札幌市街-国230→道の駅 望羊中山(中山峠)-国230→洞爺湖サイロ展望台-国230→洞爺湖温泉(珍島公園)-県2→洞爺湖温泉-町道泉公園線→室蘭本線洞爺駅-国37→道の駅 あぷた→国37→横綱北の湖記念館-町道→壮瞥温泉-県2(洞爺湖南岸)-国453-国276(国453)→支笏湖温泉-国453(支笏湖北岸)→支笏湖観光センター-国453→藻岩橋-国230→札幌市街



ツーリングレポート


 北海道ツーリングの朝、宿泊した札幌駅前のホテルから地下鉄に乗ると、すすきので市電に乗り換え予約したレンタルバイク店に向かった。 プロテクターを仕込んだライディングジャケットとパンツ、暑っ苦しいエンジニアブーツと、傍らにオートバイが無ければ何とも不自然な出で立ちのバイク親父は、恥ずかしさを上回るツーリングへの期待を携え、北海道一の繁華街を移動する。

 半時間程で国道230沿いで営業するレンタルバイク店にたどり着くと、早速乗り出しの契約手続きを済ませ、ピカピカに磨き上げられたTRIUMPH BONNEVILLE T100に対面した。

 2016年型の900cc空冷二気筒エンジン、現行モデルは水冷化されているようだが、やはりこのデザインにラジエターは無粋であろう。

 久しぶりにチョークを引いてエンジンを始動するが、思ったより癖のないピーシューターの排気音。 ネオクラッシックを名乗っても今時のバイク、昭和親父のノスタルジーを満たすにも限りがある。





トライアンフボンネビルT100 空冷二気筒900cc、2016年型


 T100のエンジンが暖まる間に傷の確認や操作説明などを済ませ、いよいよツーリング往路の国道230へと走り出した。 そしてまずは、混雑した札幌市街を抜ける間を利用して、T100の特性を身体に馴染ませることにした。 梅雨の名古屋で留守番するGSX-Rとの、ライディングポジションやエンジンフィーリングの違いはかなり大きい。

 日頃はGSX-Rに強制的な前傾姿勢を強いられるバイク親父、それに比べてT100の自然な腰掛け姿勢は何と楽ちんなこと。 しかし、こりゃ楽だと気を抜きアクセルを開けると、上体を置いて行かれ怖い思いをすることになる。 高出力なSS以上に体幹を意識して、シートから脳天へ伝わるトルクを感じる姿勢を維持する。

 また、緩やかなトルク特性ゆえにガバッとアクセルを開け足したくなるが、トルクが欲しいタイミングからの遅れが増すばかり。 トルクの立ち上がりを楽しめる回転域は意外に狭く、逆にそれがハマったときの立ち上がりの気持ち良さは癖になる。

 札幌市街で信号停止と発進を繰り返しているうちに、ライディング姿勢やアクセルワークの勘所が身体に馴染んできた。 絶対的な速さを云々いうバイクでは無いのだろうが、この乗り味の根強いファンがいることも頷ける。

 さて、札幌市街を抜けて郊外に差しかかると同時に、緑に覆われた支笏洞爺国立公園の定山渓エリアが始まる。 国道230は、支笏洞爺国立公園を貫ける観光道路だが、道央と道南を結ぶ幹線道路でもあり交通量はかなり多い。 しかし、速度標識が無い制限速度60kmの一般国道で地元車の流れは十分速く、本土から訪れたツアラーがストレスを感じることはないだろう。

 無意根山、札幌岳の狭間を流れる豊平川に沿った定山渓、国道230で標高を稼ぎ定山渓温泉を過ぎると本格的な山岳道路の様相となる。 ミズナラなどの広葉樹の森に白樺が目立つようになり、札幌市街では暑いくらいだった体感気温も一気に下がってきた。

 しかし、札幌市街から国道を小一時間も走ればこの景色、気持ち良い季節をツマミ食いしようと全国からバイク乗りが集まる理由を身をもって知る。

 頭ではそれなりに思い描いていたつもりだが、この気持ち良さは実際に走り風を浴びてみなければ分からないかもしれぬ。




国道230で定山渓を駆けあがる、速度標識の無い国道は久しぶり


 札幌の気象予報を参考に羽織ってきたメッシュジャケット、冷たくなったジャケット越しの風にインナーを一枚追加して走り続け、最初の休憩ポイント中山峠835mにたどりついた。

 中山峠は蝦夷富士こと羊蹄山1,898mを望む絶好のビューポイント、峠で営業する道の駅「望羊中山」の名前もそれに由来するのだろう。 今回のツーリングルートは、この峠から蝦夷富士のシンメトリーな容姿を眺めたくて計画したと言っても過言でないのだが...思い通りにならぬのが世の中、蝦夷富士の山頂は飛行機から見下ろした低い雲に覆われ、裾野がわずかに覗く程度であった。


中山峠標高835mにたどり着くも、お目当ての羊蹄山は雲に隠れる


 残念だが旅はまだ始まったばかり、気持ちを景色から食欲に切り替えた親父は道の駅の売店で、中山峠名物の元祖あげいも350円也を購入した。 1968年から販売され続けているこのあげいも、札幌から道南への長距離ドライブの腹の足しとして愛されてきた道民のソウルフードなのである。

 コンビニで販売されているアメリカンドックの魚肉ソーセージが、丸ごと一個蒸されたジャガイモになったと言えば伝わるだろうか。 その大きなあげいもが三個串刺しにされた様はかなりのボリューム。

 香ばしく揚げられた甘い衣と、ジャガイモのホクホクした食感のコントラストが癖になる。 ジャガイモに下味は付けられていないが、羊蹄山産にこだわった男爵イモの自然な甘みが際立つ。 売店脇には、色々なトッピングと調味料が用意されているが、まずは北海道が誇るファーストフードをそのまま味わいたいところである。


中山峠の名物あげいも350円也、1968年から販売される道民のおやつ


 未練がましく羊蹄山を覆う雲が立ち去らぬかと様子をうかがうも、蝦夷富士の完璧な円錐形を拝むことは叶わず、道の駅の駐車場から洞爺湖に向け再び走り出すことにした。 そして、国道230が喜茂別町の中心部にさしかかると、徐々に北海道らしい広大なジャガイモ畑が広がった。

 日本有数の火山地帯を廻る今回のツーリング、ルート沿いに次々と現れる火山峰を見上げる緩やかなワインディングが続いている。 ライディングの変化を楽しめる反面、地平線にむけて限りなく続く畑や真っすぐな道の景色は望めぬが、境目のない広大な畑にジャガイモの花が咲く様子は、北海道のスケールの大きさを感じさせる。


留寿都を過ぎ洞爺湖を目指す、貫気別山994mとジャガイモ畑


 その後、利尻岳1,107mの南麓に広がる留寿都村のスキーリゾートを抜けて、ツーリングを折り返す洞爺湖町への町境を越えることとなった。

 そして、貫気別山994mの裾野に広がるジャガイモ畑を眺め走り続けると、いよいよ巨大な洞爺カルデラの外輪山に差しかかった。

 残念ながら国道230沿いから洞爺湖の眺望は開けず、観光客であふれるサイロ展望台に立ち寄ることにした。 その名の通り、行く手の国道沿いにサイロを模した施設が目に留まり、唯一の展望ポイントを見逃すことはないだろう。

 駐車場の脇にトライアンフを停めて崖っぷちの展望台まで歩くと、周囲約40kmの洞爺湖と中央に浮かぶ中島の絶景が広がった。 日頃はオフィスでモニターを睨みつけ目が霞むリーマン親父、こんな景色を目に焼き付ければ衰えた視力も回復するかもしれぬが...やはり、付け焼刃の観光では無理か(笑)。

 約11万年前の噴火で形成された洞爺カルデラ、その後約5万年前の噴火でカルデラ中央に形成された中島、さらに約2万年前からの噴火で洞爺湖の南側に形成された有珠山...昭和、平成、令和の年号をまたぐのが精いっぱいの親父には想像もつかぬ時間スケールである。 しかし、最近のCG技術によるリアルなSF画像を見慣れた世代であれば、この絶景が創られたプロセスを予習して訪れると、その様子を早送りで空想することもできそうだ。

 回復の兆しを見せぬ親父の眼精疲労を見切って駐車場のT100のもとへ戻ると、傍らでエンジンを停めたH/D ROADSTAR乗りの外国人女性にご挨拶。 この日常、北海道出身の芸人コンビの「欧米かっ!」の突っ込みが生まれるのも納得できる国際色(笑)。 そのHD乗りは北海道在住とのことだったが、夏のオートバイツーリングに冬のスキーリゾートと、世界10位を誇る日本の観光収入を支える北海道の観光資源は世界レベルなのである。


サイロ展望台から洞爺湖の眺め、約11万年前の噴火でできたカルデラ湖


 サイロ展望台から国道230に復帰すると、そのまま洞爺湖西岸の外輪山を南下した。 程なく洞爺湖温泉に向けての下りとなり、遠くに湖面を見下ろしながら爽快な林間のワインディングを駆け降りる。 そして、国道230から洞爺湖南岸を走る県道2に分岐してすぐ、湖岸にある珍小島公園に立ち寄ることにした。

 周囲200m程の珍小島が砂州で繋がった公園で、日本で初めてユネスコの世界ジオパークに認定された、洞爺湖有珠山ジオパークの解説などが掲示されている。 公園内には2000年の有珠山噴火で発生した、断層や波打つ石畳などがそのまま保存され、この地域の火山活動の凄さを目の当たりにできるだろう。 チ〇コ島の名称から、TVの下ネタ番組にも取り上げられたらしいが、面倒なのでその件はスルーさせていただく(笑)。

 さて、チ〇コ島...もとい、珍小島公園の湖岸におりて洞爺湖を眺めてみると、湖面から洞爺カルデラが形成された噴火の大きさを改めて実感できる。 湖面に浮かぶ中島は続く噴火で形成された火山の頂、湖面の下には水深180mの深い谷が隠れている。


洞爺湖温泉にある珍小島公園、湖岸から洞爺カルデラの眺め


 珍小島公園を後にして県道2に走りだすと、洞爺湖温泉から室蘭本線洞爺駅に向かう町道泉公園線に分岐した。 その後、洞爺湖を背後に見ながら峠を越えると内浦湾の眺望が広がり、洞爺駅脇で室蘭本線を越えて海岸沿いを走る国道37に突き当たった。


町道泉公園線で内浦湾へ、洞爺湖の湖面に振り返る


 国道37を苫小牧方面に走ると程なく、目指す道の駅「あぷた」にたどりついた。 その道の駅名は洞爺湖町に合併される前の虻田(あぶた)に由来し、さらに虻田の語源であるアイヌ語の「アプタベツ」にさかのぼる。

 支笏洞爺国立公園の周辺はかつてアイヌ民族の居住地で、現在の地名にもアイヌ語のなごりが残っている。 アイヌ語の地名に和名が当てられ、観光客向けにアレンジされてアイヌ語に戻るとは皮肉なものだが、語源をたどるとアイヌ人が暮らしていた頃の様子が浮かんでくる。

 ちなみに、和名「虻田」の語源となった「アプタベツ」の意味は、「釣り針をつくる川」ってことらしい。


国道37沿いの道の駅あぷた、虻田漁港と内浦湾の眺望


 おっと、話が随分と横道に逸れてしまったが、食い意地のはったバイク親父がここを訪れた理由は、北海道の安くて新鮮なうに丼を食べたかったからである。 早速身支度を整え、物産販売所の奥の食券売り場に並ぶと、道の駅あぷた名物のうに丼1,850円也を注文した。 食券を購入すると、虻田港越しに内浦湾を眺望できるテラス席に案内され配膳を待つこととなった。

 そして、運ばれてきた膳にはウニ折一枚が丸ごと供され、小ぶりのホタテが入った味噌汁が添えられていた。 原材料の高騰による値上げを詫びる掲示が目に留まるが、このボリュームの新鮮なウニがこの値段でいただけるのは北海道たるゆえんだろう。

 はやる気持ちを抑えながら、形の良いウニ粒を潰さぬように飯に盛りつけて薬味を散らすと、仕上げに山葵を溶いた醤油を回しかけて何とも贅沢なうに丼が完成した。 ここは男らしく豪快に掻きこみたいところだが、一口一口ゆっくりと、鼻に抜けるウニの香りと口中に広がる甘さを楽しむ。 これはもう、絵面通りの解説のいらぬ美味さ。 そして、合間にすするホタテの味噌汁が旨い! 目の前の海の旨味が凝縮されたような出汁に幸せなため息をつく、ふ~っ。


北海道産の新鮮なウニ丼1,850円也、出汁が効いたホタテの味噌汁も美味い


内浦湾の眺望には目もくれず、板ウニの丼盛り作業に集中する(笑)


 ウニ丼で至福の時を過ごして再び国道37へ走り出すと、国道453に分岐してツーリングを折り返すことにした。 そして、支笏湖への北上ルートに走り出して程なく、国道沿いの森の上から昭和新山が頭を出した。

 昭和新山398mはその名のごとく、昭和18年から20年にかけた有珠山西麓の噴火で誕生した真新しい火山である。 赤茶色をした溶岩ドームが剥き出しになった山頂が、誕生して間もない火山であることを物語っている。 現在も、かつての宅地や農地の持ち主が所有する、世界でも珍しいプライベート火山らしい。 私も言ってみたい、「あっ、あれっ? 俺の火山だよ」 (笑)。

 昭和新山の活発な火山活動の報道画像が、子供の頃の記憶に残る昭和親父である。 何万年も前の噴火や地殻変動を解説されてもピンとこないが、己が育った昭和時代に突然隆起して噴煙を上げる山を見上げると、今見えている世界が永久に続くものでないことを実感する。 飛んでも跳ねても微動だにしない地面がみるみる形を変えて山になるのだから、形があって無いような人の世の刹那に一喜一憂するなど、阿保らしくなってくるわけである。


1945年の噴火で生まれた昭和新山標高398m、めずらしい私有地の火山


 国道453から県道703に分岐すれば、有珠山と昭和新山の間を抜けて洞爺湖岸に出ることが出来る。 しかし今回は、昭和新山を足元から見上げる観光ルートを見送り、横綱北の湖記念館の脇から町道に分岐して、洞爺湖岸へ抜けることにした。 時折のぞく有珠山や昭和新山を眺めながら洞爺湖岸に出ると、湖岸の県道2を暫く走って洞爺湖に別れを告げ、支笏湖に向け北上する国道453に復帰した。


約2万年前の噴火で生まれた有珠山標高737m、洞爺カルデラの南麓


 走りだした国道453は、長流川沿いの林間を遡る爽快なクルージングルートである。 札幌へ帰る観光客や苫小牧港へ向かう大型車両などでそれなりの交通量はあるが、名古屋から訪れた一見バイク親父のツーリングにとっては十分な流れである。 それでも前に出たい方々には、見通しの良い追い越し可能区間で先行車をパスすることも可能だろう。


洞爺湖から国道453へ折り返す長流川沿いを、支笏湖に向け北上する


 海岸線から遡上しだして間もないのに、長流川の河原にはゴツゴツした岩が転がり、海岸から急峻に立ち上がる火山地帯の地形がうかがえる。 そして、支笏カルデラへ貫ける滝笛トンネルを過ぎると、支笏湖へ注ぐ美笛川沿いを下って支笏湖南岸にたどり着いた。 残念ながら、国道沿いの木々に遮られて支笏湖の眺望は開けぬが、屈斜路湖に次ぎ国内で二番目に大きなカルデラ湖の気配を感じながら走り続ける。


支笏湖へ注ぐ美笛川沿いの国道453、森に遮られ樽前山の眺望は開けず


 見通しが効かぬ林間を過ぎて北岸に差し掛かると、待ちに待った支笏湖の眺望が一気に広がる。 約3万年前から始まった噴火で誕生した支笏カルデラ、その後円錐形のカルデラ外輪で、恵庭岳、風不死岳が噴火し繭型のカルデラ湖となった歴史を持つ。

 観光車両でごった返す支笏湖温泉を見送り、しばらくは湖岸に沿った切り返しを楽しむことにした。 北海道屈斜路湖につぎ国内二番目の大きさ、水深約360mは秋田県田沢湖に次ぐ国内二番目の深さ、その水深のため水温が安定し不凍湖の北限となっているらしい。 さらに、摩周湖と一、二を争う透明度...っと、様々な肩書に負けぬ神秘的な雰囲気を漂わせる湖面である。


不凍結湖の北限支笏湖の北岸を走る、水深360m、日本有数の透明度を誇る


 洞爺湖とならぶ支笏洞爺国立公園の観光目玉、支笏湖のスペックに色々と触れてきたが、食い意地のはったバイク親父の目的はやはり美味いもの(笑)。 6月から8月の漁解禁期間にここでしか味わえない、新鮮な天然ヒメマスを食らうためにここを訪れたと言っても過言ではない。

 支笏湖岸のライディングを満喫したバイク親父は、支笏湖観光センターのポロピナイ食堂に立ち寄り、お目当ての天然ヒメマスをいただくことにした。 ポロピナイ(幌美内)はアイヌ語の地名で”大きな枯沢”の意味、この施設では天然にこだわったチップ料理が供される。 1894年に阿寒湖から支笏湖に移植されたヒメマスは海へ下らないベニザケ、地元ではアイヌ語で薄い魚を意味するチップと呼ばれている。


ポロピナイの支笏湖観光センター、地名はアイヌ語で大きな枯沢の意味


 さて、支笏湖観光センターの駐車所にT100を停め、センター内で営業するポロピナイ食堂に入ると、食券販売機でヒメマス生ちらし丼1,780円也の食券を購入した。 観光施設と侮るなかれ、目の前のカルデラ湖で獲れた天然素材の新鮮さに加え、お造、塩焼き、フライに天ぷら等々、本格的なチップ料理が味わえる。

 食券番号を呼ばれて受け取ったヒメマス生ちらす丼、贅沢に隙間なく敷き詰められたヒメマスは、ふわっふわの食感とさっぱりした脂で酢飯との相性も抜群である。 観光シーズンの真っ只中、手間のかかるメニューも多いため、多少の配膳待ちを強いられるかもしれないが、それを帳消しにする美味さ♪


ヒメマス生ちらし丼1,780円也、別名チップはアイヌ語で薄い魚の意味


 ポロピナイ食堂で支笏湖の天然ヒメマスを堪能した後、湖岸に降りて限りなく透明な支笏湖の湖面を眺める。 昭和から平成の経験を経て我々は、道路や鉄道を引き工場を建てまくるだけでは、永続的な国の成長と幸せな暮らしを実現出来ないことを分かっているはず。 支笏湖の限りなく透明な湖水が維持されそこに泳ぐヒメマスを味わえることに感謝、この環境をどうやって維持向上して行けるのか考えることが、そのヒントになるのかもしれない。

 支笏湖観光センターから国道453に走り出し支笏湖岸を離れると、カルデラに張り出す恵庭山東麓へと駆け上がり札幌市街への帰路に着くことにした。 林間のワインディングには徐々に人の暮らしが見え始め、あっという間に北海道最大の政令指定都市の賑わいとなった。

 ツーリング序盤の中山峠で、期待していた羊蹄山の眺めは低い雲に遮られ、その後もルート沿いから蝦夷富士の完璧な円錐形を望むことは叶わなかった。 そのため、羊蹄山の足元を廻るニセコ方面のルートをショートカットしての帰還、借り物のトライアンフを返却するまで小一時間の余裕がでることなった。

 これ幸いとレンタルバイク店の前を一旦素通りし、大通公園のさっぽろテレビ塔や札幌時計台など、有名な観光スポットをめぐる市街観光で旅を終えることにした。 何度も見たことのあるベタな観光名所であるが、トライアンフ越しの風景はチトお洒落に見えるから不思議である。 まあ、バイク乗りのひいき目だな、自撮りでもりあがる中国人のおばちゃん達から見れば邪魔なだけだろう(笑)。

 余談だが、さっぽろテレビ塔は「テレビ父さん」といういご当地キャラ化されている。 そして「テレビ父さん」は「タワー六兄弟」の四男という設定らしい。 「名古屋テレビ塔」を長男に「通天閣」「別府タワー」「さっぽろテレビ塔」「東京タワー」「博多ポートタワー」の順に「タワー六兄弟」という設定なのである。 いずれも建築家内藤多仲の設計によるのが兄弟たる所以、子供の頃見上げていた博多ポートタワーとさっぽろテレビ塔の間の意外な共通点を知り、ちょっとだけうれしくなった。


大通り公園内のさっぽろテレビ塔、1957年にできた札幌のシンボル


1878年に建造された札幌時計台、本名は旧札幌農学校演舞場


 市街観光を終えてT100のガソリンを満タンにしすると、レンタルバイク店で返却手続きを済ませた。 ライディングジャケットのプロテクターを抜き取り、メッセンジャーバックにしまい込んで電車移動、札幌駅近くの宿でシャワーを浴びて一息つくと、いよいよ北海道初ツーリングの一人反省会に突入した。

 訪れたのは札幌駅北口にほど近いジンギスカン義経、昭和37年から続くジンギスカンの老舗である。 ツーリング同様、予約無しでふらっと訪れた親父は生憎の満席をくらうが、カウンター席を詰めた端っこに加えてもらえることとなった。


昭和37年創業のジンギスカン義経、今も現役三姉妹の気取らぬ接客


 早速ジンギスカン一人前750円也を注文し、カウンター席で一人ジンギスカンを満喫する。 この店は、味付けマトンを焼きそのままいただくスタイル、ジンギスカン鍋への食材の乗せ方や食べごろまで、名古屋から訪れた一見親父にも親切に教えてくれる。

 さて、カウンター席を無理矢理詰めて横に迎えてくれた男性、聞けば東京のリーマン生活から37年振りに故郷札幌の勤務となった義経の常連さん。 博多から名古屋に就職した我が身の話も加え、リーマン親父同士の話も弾むこととなった。 柔らかいジンギスカンの絶妙な甘辛さにビールも進み、お腹も心もいっぱいになった。

 創業当時から57年たった今も現役で店をしきる三姉妹、札幌と名古屋のダブル親父の相手をして、最後に見送ってくれたのは一番上のお姉さんだろうか、心地よい札幌の夜に感謝。


ジンギスカン一人前750円也、味付けマトンの美味さにお代わり


 久しぶりの深い眠りから目覚めチェックアウトを済ませると、札幌駅から新千歳空港への快速電車に乗った。 急に思いついた北海道の週末ツーリングだったが、思惑通り雨に降られる事なく全行程を終えることができた。

 今回は、予約可能な航空券の都合で前後に移動日を設けることになったが、タイミングが合うフライトさえ確保できれば、新千歳空港発着のレンタルバイクを利用して土日だけの旅も可能かもしれぬ。 また、道央方面へ足を延ばしたい場合にも、新千歳空港から直接走りだした方が効率的だろう。

 さて、新千歳空港にたどり着くと、かみさんから頼まれた北海道菓子を購入して、中部国際空港行きのフライトに搭乗した。 飛行機とレンタルバイクの旅、思惑通りに北海道の週末ツーリングを満喫し、名古屋の梅雨に舞い戻ることとなった。



(おまけ 札幌編)


 日帰りツーリングの前後の移動日、空き時間を利用して訪れた、美味い北海道飯がいただける店を紹介しておきたい。 家族との旅行では、サッポロビール園のジンギスカンやビール博物館見学、小樽まで足を延ばして海鮮市場や小樽運河観光等々、ワイワイと楽しめる場所を訪れることが多い。

 今回紹介したいのは、呑兵衛のバイク親父が一人でふらりと訪ねて、リーズナブルで旨い北海道メシと美味しいビールが吞める店。 今時のバナナのたたき売り風通販番組では、個人の感想であり効能を保証するものではありません、ってテロップが瞬間表示されることになるのだろうが、そこはご容赦を(笑)。


■四季 花まるPASEO店

 札幌駅ビル一角の食堂街にある根室産の新鮮なネタにこだわる寿司屋である。 北海道の回転ずしブランド、根室花まるが展開する回らない寿司屋。 回転すしの気楽さとお寿司屋のくつろぎの両方を味わってもらいたいというのがコンセプト。

 ここはひとつ店のコンセプトに乗って、カウンター席に座って好みのネタを注文し、北海道の地酒などとともにゆっくり楽しみたいところである。 まずは盛り合わせを頼んで好みの北海道のネタを探すのも手だが、新鮮なネタは食べ応えも十分なので、最初の盛り合わせでお腹いっぱいになるかも。 食事時には行列必至なので時間帯を選んだ方が良い店。

■ピカンティ

 ミシュランガイド北海道にも掲載された札幌スープカレーの老舗。 スープカレーの種類、メインの具材、辛さ、トッピングの順に選択し、老若男女自分好みのスープカレーが出来上がる仕組み。 ちなみに小生の好みは、スープは濃厚、具材は野菜、辛さはMAX(笑)。 辛さのレベルをあげると生唐辛子ホールのトッピングが増えるので、まずは3/5から始めて生唐辛子を潰しながら辛さ調整するのが良いかも。

 適度な歯ごたえを残して調理された野菜の甘さと香ばしいスープカレーの組み合わせが二重丸、サッポロ・クラッシックとの組み合わせで三重丸(笑)。 自分好みのスタイルが決まったら外せない店。

■雪印パーラー

 名古屋の日常では甘味など目もくれぬ呑兵衛親父だが、随分昔に家族と訪れて以来札幌に来ると尋ねたくなる店。 濃厚だけど軽い甘さのクリーム...素材の何が違うのか未だにわからないが、無駄な詮索はせずに北海道の甘味を堪能することに決めている。

 注文は、生キャラメルバナナパフェ、これ一本(笑)。 香ばしいカラメルと前述の濃厚だけど軽いクリーム、さらに完熟バナナのあまい香りとまろやかな舌触り、パーフェクトなパフェ。 この店に来ると、子供の頃親に連れられ出かけた博多のデパートで、飾り物のようなフルーツパフェに心躍らせたことを思いだす昭和親父である。



(おまけ 新千歳空港編)


 北海道出張の乗り換えや搭乗時間まで間があるときに重宝する新千歳空港の食堂街、北海道全域の新鮮で美味いものが揃っているのがありがたい。 北海道を旅する際には、新千歳空港の店も範ちゅうに入れて、ご当地グルメを効率よく堪能したいところである。


■どんぶり茶屋

 札幌二条市場直送の新鮮なネタを用いた海鮮丼をリーズナブルな価格で供する店、バリエーション豊富なメニューが揃っているので好みの海鮮にありつけるだろう。 美味い魚が獲れる海から最短で丼にのるってのは最強のスパイス、名古屋ではなかなかお目にかかれない角が立った新鮮ネタを一網打尽にできる。

 お薦めのネタが盛られる日替わり丼を注文、まずは新鮮なネタを一切れづつ味わってサッポロクラッシックを飲み干し、それから海鮮丼らしくご飯と一緒に頬張るのがお勧め。 付け合わせの滋味深いシジミ汁も絶品であった。

■松尾ジンギスカン

 札幌を中心に多数出店する有名なジンギスカンブランド、臭みの無い味付けマトンを焼いてそのまま頬張るスタイル。 「ジンギスカンは鍋である」のこだわりか、肉や野菜からしみだした旨味を全部いただくための手順書が置いてある。 オプションで生卵を注文できるので、溶き卵にしてすき焼き風のいただき方が旨い! 札幌市街では夕方からの営業するジンギスカン店が多いが、昼前から営業しているこの店はフライトの時間に合わせて利用できるのがありがたい。

■函館麺厨房あじさい

 函館ラーメンの代表格で創業70年以上の老舗、お薦めは味彩塩ラーメン。 北海道らしい昆布ベースの透明なだしに豚骨や鶏ガラの旨味が溶け込んでいる。 麺はキレの良い歯ごたえが残る中太のストレート麺、透明なスープとのからみ具合もほどよく、あっさりとしたコクのある味わいに全体がまとままっている。

 あじさいが出店する新千歳空港のラーメン道場では、北海道各地のご当地ラーメンが味わえるので、お腹に余裕がある方々は食べ比べも可能である。



晴れたらふらっと

風を切るオートバイは旅の相棒、そして生きる意味となった

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