2021/07/14 鳳来峡/茶臼山/加茂広域農道、奥三河周遊ツーリング(お食事処やま正)

 愛知県に発出されていた、3回目の新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言、さらにまん延防止等緊急処置が解除され、県境跨ぎを自粛した愛知県内ツーリングへと走り出すことにした。

  東高西低の地形を有する愛知県では、北東部に奥三河の高原や山地、南西に向けて尾張の緩やかな丘陵、そして美濃へと濃尾平野が続いている。 そして、今回たどった奥三河の山間を巡るルートは、バイク乗りにとって貴重な県内ワインディングである。

 そしてまずは、新東名高速道新城インターを起点に、静岡県境に沿った国道151で奥三河を北上することにした。 さらに、長野県境を目前に茶臼山高原へと駆け上がって西走すると、岐阜県境に沿った奥矢作湖南岸から加茂広域農道へと折り返して、東海環状道豊田松平インターから帰路に着くルートをたどることにした。

 その道中、長篠から東栄町へと駆け上がる国道151沿いでは、”東栄チキン”の看板やのぼり広告が目に留まることとなった。 ”東栄チキン”は、東栄町で飼育される鶏種や飼料にこだわった若鳥肉のブランドらしい。 今回は、東栄町で100年続く老舗料理店の”やま正”に立ち寄り、”東栄チキン”の町興しメニューをいただくことにした。

 このところ、街中の古戦場やら産業遺産などを巡ることが多く、久しぶりのワインディング三昧の旅である。 コロナ禍でひっ迫する医療事情もあり、救急車の世話になどならぬよう、いつも以上に安全マージンを確保したライディングを心掛けるにしても...間が空くと思うように動かぬ親父の身体、走り終えた後も心地よさとは程遠い疲労感は必至である。 治まらぬコロナ禍で強いられる様々な自粛もあり、”乗り続ける事に意味がある”ってフレーズを、あらためて意識する走り出しとなった。


茶臼山高原へ駆け上がる県道506、静岡県境越しに南アルプスを望む


ルート概要


新東名高速道新城IC-国151→渡瀬橋(湯谷温泉)-県439→加周橋-国151→本郷(やま正、蔦の渕)-国151→坂宇場御所平-県506→茶臼山-県507(茶臼山高原道路)→西納庫-国257→滝見橋-県356→小渡-県19→柿野-県357→国153-県366-加茂広域農道-県33-加茂広域農道-県364-加茂広域農道-国420-加茂広域農道-県363-県77→根崎-国301→東海環状道豊田松平IC


ツーリングレポート


 梅雨明け間近の晴れ間に高速道路へと駆け上がると、新東名高速道へと走り継いで静岡方面へと走り続ける。 そして眼下に豊川に沿って広がる新城の街を見下ろすと、程なく旅の起点となる新城インターへとたどり着いた。 新東名高速道路と新城インターの開通により、奥三河から南信州や遠州山間部へのアクセスも容易になったが、残念ながら今回は県境を跨ぎ自粛の旅である。 一刻も早く、境界なく色々な土地を旅できる日々が来ること祈るばかり。

 さて、新城インターから国道151に駆け降りると、さっそく案内標識に従い東栄町方面へと舵を切る。 そして長篠城址を過ぎると、国道151、JR飯田線、そして豊川上流の宇連川が視界に入り、時折交差しながら並んで標高を稼いでゆく。 程なく道沿の民家も徐々に消えて行き、湯谷温泉から宇連川の上流に続く鳳来峡にさしかかった。

 木々に覆われた国道151から宇連川の川面は覗けず、いつもは通り過ぎるだけの区間である。 しかし今回は、コロナ禍の貴重なライディングで少しでも多くの景色を記憶にとどめようと、国道151から宇連川対岸に渡り、間近で渓谷の流れを眺めてみることにした。

 そして、浴場レジャー施設”鳳来ゆ~ゆ~ありいな”の脇を抜け渡瀬橋を渡ると、切り立った山裾を走る飯田線と宇連川の間を走る県道439を遡ることにした。 オートバイであっても対向車との離合が不安になる狭道からは、板敷川と呼ばれる宇連川の流れを足元に見下ろすことが出来る。

 その呼び名どおり板を敷いたような川底は、約1500万~1300万年前に活発に活動していた、設楽火山の噴火で堆積した凝灰岩が露出したものである。 現在、鳳来湖を中心に広がる20~30kmの範囲には、設楽火山の活動により形成された地層が広がっている。 茶臼山(1,415m)、天狗棚(1240m)、明神山(1016m)、平山明神山(970m)、宇連山(929m)、岩古谷山(799m)、鳳来寺山(695m)など、鳳来湖を取り囲むように繋がる奥三河の山々は、設楽火山の巨大カルデラの名残なのである。

 また、日本列島ができる前、約2000万~1700万年前の奥三河は深い海に覆われており、設楽火山の噴火で形成された地層の下からは、貝や魚類などの生物化石が見つかっている。 その砂岩や泥岩からなる地層は、設楽火山の活動できた安山岩などの地層に比べて浸食されやすく、特徴的な滝や渕などを形作っている。

 さらに、伊良湖から三河湾の海底を潜り東三河平野の地下を通った中央構造線は、長篠城付近で地表に現れて宇連川沿いを走り、水窪から秋葉街道方面へと抜けてゆく。 長篠城付近の宇連川では断層の露頭も観察され、その南側には約9000万~6000万年前の巨大断層で変成した古い岩石層が続いている。

 そんな多様な地層を持つ奥三河では、鳳来寺山の鏡岩、鳳来峡の馬の背岩、上述した板敷川等々、特徴的な形をした岩石や景観が幾つもの観光スポットにもなっている。 思い付きで立ち寄り眺めた宇連川の景観だが、あらためてその生い立ちを調べてみると、何ともアカデミックな観光蘊蓄を聞きかじって感心する親父であった。

約1500万年前、設楽火山の噴火でできた板敷川の平らな川底


 板敷川を眺め一息つくと、県道439を上流へ走りきって加周橋を渡り、復帰した国道151を東栄町方面に向けて走り出した。 その後、引佐方面へ南下する三遠南信自動車道鳳来峡インターを過ぎ、宇連川の支流亀渕川沿いに分岐して飯田線橋梁をくぐる頃には、いよいよ国道151は本格的な峠道の様を呈して来る。

国道151は宇連川支流の亀渕川沿いへ、飯田線橋梁を潜り本格的な峠道が始まる


 その後国道151は、東栄町や豊根村集落をつなぎながら長野県境に向けて標高を稼ぎ、川の流れに沿った緩やかな峠道、鬱蒼とした林間のタイトな九十九折れ等々、バリエーションに富んだ山間ワインディングが連続する。 南信州と奥三河、さらには天竜をつなぐ幹線国道の路面はよく整備され、北上すると全域上りになる走りやすさも手伝って、久しぶりのワインディングを十分満喫することとなった。

 国道151の傍らを走っていたJR飯田線は、東栄駅を最後に、佐久間、水窪方面へと別れて行く。 そして、豊川水系川渕川から天竜川水系奈根側へと分水嶺を越えたところで、昼食をとる予定の東栄町集落にたどり着いた。

 お食事処「やま正」は地元で愛される老舗、山に海のものをという行商から受け継がれる目利きは100年以上続いている。 また、春の山菜、夏の鰻や鮎などの季節の食材を味わえる他、道中看板で知った”東栄チキン”を使った地域興しメニューもいただける。

お食事処「やま正」は地元で100年以上愛され続ける老舗


 そして今回注文したのは、東栄チキンの鶏から揚げ定食1,050円也。 回遊するマグロ親父の主食、天竜川支流の鮎塩焼きの捕食を試みるも、遠火でじっくりと焼かれる調理時間にを聞いて注文を見合わせる。 到着前に電話連絡をもらえれば、段取り良く提供できると詫びを入れられるが、焼き時間を許容できぬ己の気持ちの余裕の無さを反省する。

 さて、コロナ対策で疎らに配置された席に定食が配膳されると、急ぎレポート用の写真撮影を済ませ、お目当ての東栄チキンの唐揚げにかぶりついた。 正直なところ、ありがちな鶏から揚げを想像していたが、ひと噛みでから揚げの概念が塗り替えられてしまった。 カリッ、サクッ、のひたすら軽い食感の衣は老舗の技、ひたすら柔らかくジューシーな鶏肉に、東栄チキンの”柔らかい若鳥肉”へのこだわりを垣間見る。 上品な赤だしが料理と飯をまとめ、添えられた食後の甘味に癒され、満足する一膳となった。

ご当地ブランド”東栄チキン”と老舗食事処の共同作で腹と心を満たす


 ご当地ブランド肉と老舗食事処のコラボレーションで親父の腹と心を満たし終えると、東栄町集落を西から東へと流れる大千瀬川沿いへと移動して、とうえい温泉駐車場にたどり着いた。 お目当ては、温泉施設裏手の展望所から臨む「蔦(つた)の渕」の眺めである。

 ”奥三河のナイアガラ”の称号は大袈裟な気がするが、前述した奥三河が海の底だった太古に堆積した柔らかい地層と、巨大な設楽火山の噴火でできた硬い地層の、永年の浸食速度の違いで形作られた滝の眺めは壮観である。 深くえぐられた滝つぼは柔らかい砂岩や泥岩、浸食に耐えた滝頭は硬い珪岩や安山岩でできている。 付け焼刃ながら、奥三河の地質的な歴史などを踏まえると、思い付きで訪れたベタな観光名所もまた違って見える。

東栄町集落を流れる大千瀬川、奥三河のナイアガラ「蔦の渕」


 蔦の渕の見学を終えてとうえい温泉駐車場を後にすると、国道151に復帰して再び南信州方面へと駆け上がっていった。 東栄町、豊根村の集落を過ぎると、さらに国道沿いの景色は山深くなり、走りごたえのある峠道が連続する。 そしていよいよ、長野県境を前に、茶臼山高原へと駆け上がる県道506への分岐にさしかかった。

 早速県道506に駆け上がると、走り出しは十分な幅員の走りやすい九十九折れが続き、センターラインは消え鬱蒼とした林間ルートとなる。 道路沿いに、茶臼山に降り注いだ雨水が流れ落ちる沢を見つけると、ZX-6Rを停めてすくい上げた冷たい水で汗を流し一息ついた。

  

県道506の鬱蒼とした九十九折れ、冷たい沢の水をすくい上げて一息


 休憩を終えて林間の九十九折れに復帰すると程なく、路側の木々が伐採され整備された区間となり、道沿いから静岡県境越しに南アルプスの山々を望む。 ZX-6Rのエンジンを停め、愛知県東北端からの眺めに見入ってみる。 連なる山の名前を知りたいのであれば、茶臼山の北側に回り込んで矢作川源流駐車場に立ち寄ると、南アルプスの山々の名が描かれたパノラマ写真が掲げられている。

林間の九十九折れを抜けた県道506、静岡県境越しに南アルプスの眺め


 さて、県道506を茶臼山高原まで上りきると、茶臼山高原道路こと県道507で稲武方面へと下って行くことにした。 しばらくは標高1000mを超える尾根伝いの高原道路が続き、折元IC、面ノ木ICを過ぎたところで、西納庫ICに向けてトリッキーな下りワインディングが始まる。 下りながら進入するコーナーが多く、入り口で減速を済ませ開けながら回り込むくらいの余裕がほしいところ。 右コーナーでは”崖っぷち”、左コーナーでは”対向車”、減速でパニクってアンダーを出してしまうと、何とも歓迎できぬ客が迎えてくれる。

奥三河の山々を見下ろしながら県道507茶臼山高原道路を下る


 下りは下りコーナーなりに進入速度を加減し、気持ちよく立ち上がりながらライディングを満喫すると、茶臼山高原道路を北側起点の西納庫ICまで下りきった。 そして、突き当りで混雑する道の駅を横目に、そのまま国道257に右折して稲武方面へと走り続けた。

 その後、国道153と交差する稲武交差点までは交通量も多く、遅い先行車に繋がりながら矢作川の支流名倉川の流れにそって移動する。 しかし稲武交差点を過ぎると、多くの先行車は国道153を豊田方面へと分岐して、川幅が増した名倉川の流れに応じるように国道257の流れも激しくなる。 緩やかな高速コーナーの連続にいくらでも速度は乗るが、冷静にマイペースでクルージングを楽しみたいところである。

 そして、ペースの良い先行車と距離を保ちながら走り続けると、愛知/岐阜県境となる矢作川本流にたどり着いた。 さっそく、愛知県側となる矢作川南岸の県道356へと舵を切り、道なりに矢作ダムが堰き止めた奥矢作湖南岸へと走り続けた。 湖岸に沿ったタイトな切り返しが連続するルート、梅雨の季節には山肌から流れ出た山砂や朽ち落ちた枝葉も多く、いつも以上に路面への注意が必要である。

 滑ったバイクを立て直せるかどうかでは無く、踏んだら滑るリスクを見つかられるか見つけられないか、滑らないラインを見つけられるかどうかの話である。 どんなに乗り続けたくとも、それが見つけられなくなったら降りなくてはならぬと胆に銘じる。 最近視力の衰え著しく、「大」に設定したスマホの文字を読むのもままならぬ有様だが、不思議なことに、路面の浮き砂や這いまわる毛虫を認識する動体視力、さらに取り締まりを感知する第六感センサーはまだまだ健在なのである(笑)。 

奥矢作湖南岸県道356のタイトな切り返し、対岸は岐阜県


 県道356を小渡集落まで走りきると、加茂広域農道で奥三河のワインディングを締めくくることにした。 本来ならば、小渡から明川方面へ県道366に分岐すると、加茂広域農道の北側起点にたどり着くはずだが、現在そのアクセスルートは生憎の工事通行止めである。 仕方なく小渡から県道19と県道357を繋いで、国道153に至る加茂広域農道の第一区間をバイパスすることにした。

 そして、国道153から県道366に分岐すると、直ぐに第2区間の起点となる加茂広域農道入り口にさしかかる。 案内標識に従いながら、県道33、県道364を挟み農道を走り継ぐと国道420に合流する。

 その後、国道420を設楽方面に僅かに走ると、右手に第3区間の起点が目に留まり農道最後の区間へと駆け上がる。 そして、加茂ゴルフクラブコースを貫けて走り続けると、県道366の南側起点に突き当たって加茂広域農道は終わりとなる。 山里を繋ぐルートゆえ、集落や田畑等の暮らしの中を通り過ぎる際には、さらにペースを落とす配慮が必要であろう。

 紅葉街道の愛称通り、道沿いには紅葉並木が植えられている箇所が多く、農道が秋の紅葉に覆われるシーズンが一番のおすすめだろうか。 農道が梅雨の雨をたっぷり含んだこの時期、法面から路側にかけて緑色の苔ジュータンが敷かれた箇所もアリ、ブラインドにインベタのラインで進入するのは控えた方がよさそうである。

加茂広域農道で奥三河のワインディングを締めくくる


 加茂広域農道を南側起点まで走りきると、国道301を豊田方面へと下り、東海環状道豊田松平インターから名古屋方面へ帰路に着いた。 何気なく立ち寄った鳳来峡の板敷川や東栄町の蔦の渕だったが、中央構造線、太古の海、そして巨大な設楽火山等々、現在の奥三河の景色がつくられた歴史を知ることとなった。 爺様なりに感受性を磨いておけば、まだまだ新しい発見や感動が得られるものだと合点する。 

 そして久しぶりのワインディング三昧、心地よい疲れと共に旅を終え...などという小洒落た台詞と共に旅を締めくくりたかったのだが、走り出しの予想通り、実際にはもうヘロヘロ、バタンキュー、昭和の死語で表現するしかないほどの疲れっぷり(笑)。

 年を取ってしまったというよりは、昨年新型コロナウイルス感染騒ぎが始まって以来、在宅引きこもり勤務で日常の運動量が極端に減ってしまったことや、緊急事態宣言中の長期に渡るライディング自粛等々、日常生活が様変わりしてしまったためだと感じる。 やはり、走り続けなければ窒息してしまうマグロ親父にとって、ライディングは”生活や健康維持に必要なもの”なのである。


ツーリング情報


お食事処「やま正」 愛知県北設楽郡東栄町本郷西万場4 電話(0536)76-0140 


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